触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
 反射的に立ち止まる。外は寒いというのに瞬く間に頬が熱くなり、彼女は目を泳がせた。
 誰もいない庭はほの暗く、屋敷から漏れる明かりだけが頼りだ。湯を使った後だからだろう、草花よりも清涼なシトラスの香りがフレッドの髪から漂う。その香りはすっかり彼女を安心させるものだけど、このときばかりは急に落ち着かなくなった。

「でも私から触れると婚約が」
「解消したくない?」

 優しい顔が、何かに耐えるように歪む。彼女は、ややあってからこくりと頷いた。

「きみは僕をどう思っているの?」

 彼女は息をのんだ。フレッドが真剣な目で彼女を見つめる。

 そばにいると安心できて、触れられても怖くない。
 彼のそばに女性がいると胸がざわついて、彼が辛そうにしていると何かできることがないかと考える。いつも笑っていて欲しいと思う。

 口づけを受けてもちっとも嫌ではなくて、むしろもっとしたくなるような不思議な気分になる。
 見つめられるだけで鼓動が速くなり、会えないと彼はどうしているだろうかと気にしてしまう。

 これは、なんというのだろう。

 オリヴィアは瞬きには長すぎる時間をかけて見つめ返し、とうとう答えを探り当てた。

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