触って、抱いて、もっと愛して。臆病な令嬢は貴公子の一途な熱情に蕩かされました(原題「その身体に触れたら、負け」)
 アルディスの冬は乾燥しており雪は降らないが、一月も半ばとなれば吐く息は白く凍る。二人ともコートを羽織り、屋敷の東に面した庭を歩く。

「オリヴィア。初日のことを覚えている? 晩餐会の後で、僕がきみの部屋に行っただろう」
「お水をいただいたことは覚えているのですが、気づいたらベッドにいたので……」

 あいにく、あの日は飲み過ぎて記憶がはっきりしないのだ。二日目以降は、いつのまにかフレッドが彼女の隣に陣どり、オリヴィアが酒を勧められるたびに横からさり気なく断ってくれたため、あのような醜態を見せずに済んだけれど。

「そうか……」
「何かフレッド様の気に障るようなことをしてしまったのでは」
「いや、いいんだ。少し残念に思っただけだよ」

 その表情が、まだこんな風に二人で歩くようになる前、王都の彼の屋敷で見たものと重なる。孤独をにじませた顔を見たら、意識するまもなく口を開いていた。

「なにか私にできることはないですか? 何も力になれないかもしれないですけど、あの」


「じゃあ、キスして」
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