課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
 「ん?どうした?」

 やっと私から離れた彼が不思議そうに私の顔を上から見ている。

 「はっ、い、息がっ…」

 はぁはぁと肩で息をしながら何とかそう答える。

 「美弥子…もしかしてお前、バージ」

 「違います!」

 課長が全部を言う前に、慌てて叫ぶ。

 「こ、こういうのに慣れてないのは認めますが、でも初めてではありません。」

 努めて冷静な口調でそう言った。でも顔が真っ赤なのは自分ではどうにも出来ない。

 「大学の時に付き合っていた先輩が初めての相手でした。私なりに真剣に付き合っていたつもりなんですが…その、初めての行為に及んで以降、出来なくなってしまって…。私にも相手の要望に応えたい気持ちはあるんですけど、どうしても出来なくて……そうこうしているうちにその彼には愛想を尽かされてしまいました。それから今までお付き合いした男性がいないだけです。」

 自分の欠陥を話すことが恥ずかしくていたたまれなくて言葉に詰まってしまう。
 でも正直に話すことが私が課長に見せられる誠意だと思ったから、なんとか言葉を続ける。

 「す…すみません。こういうことは先に提示しておくべきでしたよね…呆れてま」

 呆れてますか、と続けようとした途中で、思いっきり抱きしめられた。

 「か、かちょう?」

 ぎゅうぎゅうと腕に力を込めるから、結構苦しい。
 黙って私を抱きしめる彼に、私はどうしたらよいのか皆目見当もつかない。
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