課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
 「阿呆。早く言え…」

 「そうですよね…」

 自分が情けなくて涙が滲んできた。
 まばたきすれば落ちてしまう、と堪えていると

 「勝手に勘違いするな。それならそうでこっちもやり方があるってこと。」

 そう言って彼は私の頬に手を添えて私の目じりをそっと親指で拭ってから、私の額にちゅっ、と音を立てて口づけた。

 なにがどういうことなのかさっぱり理解できない。

 少なくても、セカンドバージンを拗らせているのを嫌がられてはないのかしら…。

 考えても分からなくて首を傾げると、課長は「くっ」と何かに耐えるように呟いて

 「今日はもう遅いから泊まっていけ。明日は休みだから平気だろ?適当に着替えを出しておくから風呂入ってきたらいい。」

 言いながら立ち上がって、スタスタと歩き出した。

 「え、ちょっとまってくださ、」

 「風呂、こっち。」

 廊下に続く扉の前で立ち止まった課長はドアを開いて私を待っている。

 さっきまでの甘い雰囲気が突然断ち切られて、私は良く分からないながらも、呼ばれるままに彼の元へ向かった。




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