課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
 八年以上空いた二度目の行為は、はっきり言って「全然痛くない」と言うわけにはいかなかった。

 「辛かったら爪立てていいぞ。」

 雄一郎さんはそう言って私の両腕を自分の背中に回させた。

 慎重に少しずつ進んでくれたけれど、やっぱり痛みと恐れで力が入る。
 でも彼はすぐにそれを察知して動きを止めて、「大丈夫か?」と目で窺いながら、優しい口づけをくれる。
 そして私の力が抜けるのをじっと待ってくれる。

 でもそうしている間、彼が少し辛そうな表情を浮かべるから

 「だい、じょうぶ…だから、すすめて…」

 と言う私の、目じりに溜まった涙を彼は唇で吸い取って微笑んだ。

 「俺のことはいい。今は自分のことだけ考えてろ。」

 彼のその言葉を聞いた時、私の中でこれまで感じたことのない感覚が湧きあがった。
 じんわりと、胸の奥から泉が滲み出すみたいに溢れてくる。
 それがぽろぽろと目から涙となってこぼれ落ちた。

 「つらいか?今日はやめとくか…」

 私の涙を痛みの為のものだと思ったのか、雄一郎さんは私から退こうとした。
 私は慌てて彼にしがみつく。

 「ちがうの!あなたが好きで…」

 「え?」

 「雄一郎さんのことが好きで…あなたに触れられることが嬉しくて涙が出るんです。」

 しがみついたまま涙をポロポロと流す私を、彼はギュウギュウと力強く抱きしめた。

 「俺も、美弥子を愛してる。」

 苦しそうにそう言う彼の声を聞いて体中から幸せを感じた。
 
 それから私は、身も心も彼に預けた。

 彼のなすがまま抗うこともせず、翻弄され啼かされ続けた。
 何も考えられず、ただ彼にしがみついていることしかできずに。

 “愛されることの幸せ”を彼に教えてもらった。





 
 
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