国王陛下の庇護欲を煽ったら、愛され王妃になりました

 ◇

 暦の上では秋に入ったが、ドラザーヌでは残暑が厳しく毎日暑い日が続いている。

 婚礼の準備を進めているノエリアだったが、今日はシエルとふたり、少し遠出をしている。

「馬に乗り始めたのですって。日に日に元気になっていくのが分かると嬉しいお手紙が来ました」

「まだお若いのだから、回復も早いだろうな」

 馬車の中。
 シエルはノエリアの話に答えながら、欠伸をかみ殺している。

「お疲れでしょう。連日遅くまで……眠っていてください」

「大丈夫だ。でも、ちょっとだけ眠いな」

「今日のためにご無理させてしまって、ごめんなさい」

「ノエリアの兄上の元気な姿を見るためだ。それに、領土回復の話もしたいし」

 今日の遠出というのは、シエルが手配してくれた転地療養で空気の綺麗な地域にいるヴィリヨに会いに行くのだ。

 ヴィリヨが療養地に行ってからというもの、名医と食べ物や薬、薬草のお陰で日々元気になっているらしい。ヒルヴェラの屋敷にシエルたちが来てから気が張っていたので、ノエリアの結婚が決まったあと、少し寝込んでしまったのだが。それも回復し、いまやひとりで馬に乗り景色を見に出かけたりするらしい。

「ミラコフィオ群生地の整備の話と、放置されている薬草加工工場の整備……」

 シエルは、ふたりが偶然見つけたミラコフィオ群生地の管理と増産、薬草事業の拡大強化を、かつての毒草混入事件の疑いが晴れたヒルヴェラ家に一任することと決め、山の整備なども含め領土と名誉回復を取り計らってくれた。ヴィリヨが中心となるが、リウが手伝い、マリエもノエリアもできる仕事は手伝いたいと申し出ている。


「シエル様、それは到着してからお兄様とお話ししてくださいね。いまは少しお休みになっては?」

「そうだな。よいしょ」

 シエルは座席に寝転び、ノエリアの太股に頭を乗せた。シエルはこうして躊躇わずに体を触れ合わせてくる。まるで、いままでの孤独を埋めるように。
 下からノエリアの頬に振れてくるシエル。それから髪を撫でる。

「……綺麗だな」

 答えに困っていると、ぐっと頭を引き寄せられる。唇に、うっとりとシエルの熱を受けた。

「こんな日が来るなんて、想像もしていなかった」

「わたしもです」

「きみがいれば、俺の世界は半分どころか、何倍にもなるよ」

 ずっと、一緒です。

 ノエリアは言葉にできなかった。嬉しくて、幸せで。

 このぬくもりと一緒に生きていくことは人生に起こった奇跡であること。

 亡くなった祖父と父、それと母との不思議な繋がりが、自分たちふたりを結びつけたのだ。

 見つめあっていた目が、ゆっくりと閉じられる。

「シエル様。……眠ったの?」

 返事が無い。
 寝息が聞こえてきた。ノエリアは眠っているシエルに微笑む。

 長い睫毛が自分の吐息で揺れる。シエルの髪を静かに優しく撫でた。

 窓から見える景色は、変わっていくだろう。でも、変わらないものもある。
 ここにある。両手いっぱいの、愛。


 これが、愛のすべて。





      了

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