国王陛下の庇護欲を煽ったら、愛され王妃になりました
「ほかに怪我をしていないかしら。心配です」

「腕だけです。山賊に襲われて、逃げているうち、灯りが見えたのでここへ……」

 辛そうに、眉間に皺を寄せるリウ。黒髪の青年は友人なのか。兄弟ではないと思われた。

「近くに医者がいるのでしょうか」

「村がありますが、距離があります。ただ、医者はいません。薬局はあるのですが……隣の町まで行けば医療機関があるのですが」

 村はともかく、隣町となると、怪我人を運ぶのは無理がある。
 兄を医者に診せるのもそうだ。なかなか難しく、2、3日の旅になってしまい、帰宅すると疲労から体調を崩してしまうのであまり意味が無かった。

「襲われた場所も悪かった。撒いて来たし、この嵐だ。ここまで追手がくることは考えられないが」

リウは溜息をついた。

「ここは森に囲まれて目立たないですので。さぞかし怖かったでしょう。山賊だなんて」

「仕方ありません。仕事ですので。しかし、襲われるなんて」

 悔しそうにするリウだったが、お茶を飲んでから、何事か考える仕草をした。

「王都に連絡を取りたいのです」

「王都……?」

 彼らは王都から来たらしい。詳しく聞くことはしないが、見たところ、もしかして彼らは王立騎士団なのだろうか。

「郵便屋なら来ます。明日、来るかは分からないのですが……」

 ノエリアが言うと、マリエが教えてくれる。

「村に行けば会えると思います。彼は村から来るので」

 ああ、そう言えばと思い立って、微笑みそうになるのを控える。

「そうですか……では明日、天気が回復したら村に行こうと思います」

「じゃあ、わたしがご同行いたします」

 リウが言うと、ノエリアが答えた。だが、そこへマリエが申し出る。

「僭越ながら。ノエリア様、わたしがリウ様にご同行します。ノエリア様でなければ怪我人を見ていることはできません。ヴィリヨ様もいらっしゃいます」

「そう……?」

ノエリアはどういう顔をしたらいいのか分からなかった。こんな事態だし、自分が行くべきだと思ったのだけれど、なんというか、これを女心というのだろうか。

(ちょっと羨ましい。わたしにはまだ経験のないことだから……)

 とりあえず、リウにはマリエが同行するということに決まった。リウは笑顔になる。

「それはありがたい。実は、畑の近くに馬をつないであるのです」

「あ、そうだったのですか。村まで歩いて数時間かかるので。往復で丸一日かかります」

「歩く……」

「うちは馬を置いていないので、いつも徒歩なのです」

「……そう、ですか」

 金銭的事情を察しただろうか。清潔さには心がけているが、屋敷はボロボロ、ノエリアとマリエは時代遅れの服。いまそんなことを気にしている場合ではないけれど。

「あ、では馬を連れていらしてください。馬は置いていませんが、使っていない馬小屋はあります」

 ノエリアは馬小屋の場所を教えた。畑に隣接してあるのですぐに分かるはず。マリエがランプを渡してくれる。さきほど倒れて消えてしまったのは交換したのだろう。

「大きな木のそばに繋いできたのです。雨も防げると思って」

 リウは「すぐに戻ります」と、部屋を出ていった。

「このお方、すぐ良くなるといいですね」

「そうね。血が止まって、熱が出なければいいな」

 黒髪の青年を見ると、眠っているものの、額に薄っすら汗をかいている。部屋が暑いわけではないと思うが、痛みのための冷や汗だろうか。

 ノエリアは布を絞り、額の汗を拭ってやる。そっと額に触れてみると、熱はなさそうだ。

「明日、リウ様に同行、お願いね。マリエ」

「承知しました。お任せください」

「馬があるので半分の時間で帰宅できると思うの。彼が目覚めたら、熱の有無を見て水分を与えるわ。薬草茶は解熱と鎮痛を用意しよう」

「在庫を見ておきます」

「村への納品はなんとかするわ。緊急事態だもの」

 いつもノエリアを手伝ってくれているので、マリエには多く語らずとも手筈は理解してくれている。安心して任せられる。青年に視線を戻すと、先程と変わらず眠っている。苦しんでいる様子はない。体の逞しさから、頑丈なのだろうということは見て取れるけれど、怪我は誰でも痛いし肌が切れれば血が出る。


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