無感情なイケメン社員を熱血系に変える方法
「羽生くん、どうだった?」

練習を終えて、駿太郎と彩月はとある居酒屋に来ていた。

「どうって別に,,,疲れた」

駿太郎は山芋鉄板を箸でつつきながら答えた。耳の端がほんのり赤い。

こんな時は照れている。

彩月もこの2週間余りで、随分駿太郎のことがわかってきた。

「それ、私も食べていい?」

彩月は山芋鉄板を指差しながらニコニコ笑って言った。

「あ、ああ」

駿太郎は、ヘラを使って、お皿に取り分けると彩月に渡した。なんだかんだいって、駿太郎はとても優しいのだ。

毎日の練習の後、見計らったかのような絶妙なタイミングでタオルとイオン水を差し出してくれる。帰り道は彩月が大丈夫と言っても必ず駅まで送ってくれるし。

「きつかったら言ってね。無理しなくてもいいんだよ?」

「いや、俺、スポーツ全般嫌いだけど、マイペースでやれるランニングは向いてるのかも,,,。マラソンも完走目的なら競争じゃないし、あいつらと,,,走ってみてもいい」

彩月の目が大きく輝いた。

駿太郎がスポーツ嫌いだということは社長秘書から聞いていた。だからこそ、無表情でもやる気をみせた言動を口にしたことは凄いことなのだ。

「本当に?」

「あ、ああ」

「嬉しい!私も羽生くんにもっとランニングの楽しさを知って欲しい」

テーブル越しに、彩月が駿太郎の左手を両手で掴んできた。

駿太郎の耳がまたもほんのり赤くなる。

自分が少しやる気を見せただけでこんなにも彩月が喜んでくれる。今までやる気のなさを家族や先生、同級生に責められ続けた駿太郎にとって、それは心地よい体験であった。
< 20 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop