無感情なイケメン社員を熱血系に変える方法
その絵は、風景であったり、花であったり、人物であったり。

モネが好きというだけあって、色使いがとても繊細だ。

「上手じゃないか。とても素人とは思えない」

田村は、目をキラキラさせて言った。

「実は、通信教育の絵画コースで学んだことがあって。ほとんど自己流に近いですけど」

「イヤイヤ、素人でもここまで描ければ上等だよ。磨けばもっとよくなる」

確かに、彩月の絵はとても暖かみのある優しい絵だった。まるで本人の内面を写し出すかのように。

駿太郎は、彩月が絵を好きなことも、水彩画を描いていることも何も知らなかった。

出会ってから2週間。常に仕事で一緒にいたのに、なぜ何も話してくれなかったのだろうか。

駿太郎の顔に不機嫌さを見てとり、彩月は肩をすくめて呟いた。

「下手でしょう。だから見せたくなかったのに」

「いや、上手だよ。ただ、俺何も知らなくて」

「駿太郎は君のことを何でも知っていたいんだよ。隠し事されたみたいで悔しかったんじゃないかな」

「ただ、専門家に話すのが恥ずかしくて。駿太郎が私に興味を持ってくれてるとは知りませんでしたし」

彩月のいうことは至極尤もな話だ。今知れただけでも良かったと思うしかない。

「水彩画描いてること誰も知らないの?」

「うん、独り暮らしだし、両親も県外だから家には来ないしね。友達にも兄にも言ってない。兄は私のマンションには来ないから」

その言葉を聞いて駿太郎の気持ちは浮上する。

「簡単な奴だな」

田村の言葉も駿太郎の耳には届かなかった。
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