無感情なイケメン社員を熱血系に変える方法
「へえ、駿太郎のもんねえ。彩月ちゃん、こんなのが趣味なの?」

心底面白そうな翔一朗の様子が気にいらない。昔からそうだった。スポーツが出来ない、愛想のない駿太郎を馬鹿にする。

彩月は、真っ赤になっている。きっと曖昧に誤魔化すのだろう。

「じ、実はドストライクです」

見つめあっていがみ合う形の兄弟の間に割って入り、耳打ちするように彩月が照れながら言った。

翔一朗も駿太郎も唖然としたが、すぐにその素直さにほだされることになる。

駿太郎はわずかに口角を上げて

「彩月、ありがとう」

と微笑んでいた。

「へえ,,,。駿太郎が笑ったのなんて16年ぶりに見たな」

駿太郎が友人を怪我させる前。兄弟仲はとてもよく、駿太郎はいつも翔一朗のあとをついて回っていたのだ。そこにはいつもの笑顔の駿太郎がいた。

「益々、彩月ちゃんが欲しくなったな」

翔一朗がジリジリと彩月にニジリ寄る。

「やらない」

駿太郎は彩月を自分の背中側にそっと追いやる。

「おやおや、今日は来た甲斐があったな。珍しいものがみれたよ」

翔一朗はサッカーコーナーに移動する横すがらに駿太郎の肩を叩く。

そして、駿太郎の後ろにいた彩月の耳元で何かを囁くと手をヒラヒラとふりながら二人のもとを去っていった。

「今何か言われた?」

「えっとね、あ、いらっしゃいませ!」

駿太郎の質問に答える前に、彩月は顧客に捕まってしまった。

モンモンとする駿太郎の気持ちは、昼休みまで晴れることはなかった。
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