無感情なイケメン社員を熱血系に変える方法
彩月の祖父母は確かにサンフランシスコに住んでいる。

小学校2年生までは、彩月も、国際弁護士の資格を持つ日本人とのハーフである父と、日本からの留学生として父と知り合った専業主婦の母、そして兄と共に祖父母の家の近所に住んでいた。

もちろん英語がメインの会話だったが、家では両親が日本語を話すため、2か国語で話すのが常になっていた。

駿太郎とは付き合って三日目だ。正直、アメリカで過ごしていた日々を語って聞かせることもないほど、彩月は浮かれていたのだ。

もちろん、途中でランニング教室を投げ出すことは不本意だ。しかし、アメリカ支社の危機を聞いた今では、力になりたいとも思っているのが本音だ。

だが、大声をあげる駿太郎の顔を見ていると、どうすれば正解なのかがわからなくなる。

「伊藤さんの代わりには、本社の三嶋さんに入ってもらおうと思っている。もちろん、ランニング教室もしっかりと引き継いでくれると言っている」

三嶋は彩月の先輩で、ランニングやマラソン完走コースの運営には定評があった。短大卒の三嶋は、2年前から夜間の大学に通い始め、現場を離れ本社で事務仕事をしていたが、この春、無事に卒業したそうだ。

「彼女は今まだ本社に残ってもらっている。伊藤さんがアメリカ行きを引き受けてもらえるようなら、彼女を君の支店に入れるつもりだったから」

「じゃあ、なんで俺を彩月のもとにつかせたんだよ」

駿太郎がイライラした様子を隠さずに叫ぶ。

彩月と羽生家の面々は静かにそれを見つめていた。
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