無感情なイケメン社員を熱血系に変える方法
「単刀直入に言おう。伊藤さんにはアメリカ支社に行ってもらいたい」

「アメリカだって?」

駿太郎は驚きのあまり声をあげた。

「ああ、伊藤さんはおばあさまがアメリカ人だろ?彼女は小学校の途中までアメリカにいて英語は堪能なんだよ」

初耳だった。昨日、彩月から、両親は神奈川に住んでいて、父親は弁護士、母親は専業主婦、兄は都内で医者をしていると聞いた。

祖母がアメリカ人ということは、彩月はクォーターということになる。どおりで髪も目も色素が薄いブラウンなのか。しかし、ぱっと見たところではクォーターとはわからない。

「でも、私、今、半年がかりのランニング教室を受け持ってしまいましたし、彼らを裏切るわけにはいきません」

「いや、インストラクターの代わりは他にもいるが、優秀な販売員の代わりは君以外はいないんだよ」

社長である庄之助は眉間にシワを寄せて言った。ウィングライフスポーツのアメリカカリフォルニアのサンフランシスコ支店は、現在、販売数が伸び悩み、閉店の危機にあるそうだ。

彩月は、英語もできる上にウィングライフスポーツの優秀なインストラクター兼、販売員である。彼女に白羽の矢があたるのも仕方がないことだ、と兄は言った。

「俺も来月からサンフランシスコのサッカーチームでプレイすることが決まったんだ。彩月ちゃんのフォローもできるよ」

「ダメだ」

駿太郎の大声が響く。

「彩月は、今いるお客を裏切るようなことはしない」

彩月は、そんな駿太郎をじっと見上げていた。
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