一途な2人 ~強がり彼氏と強情彼女~
そして次の日、サイン会当日。

午後12時半。約束通り、先に出版社の担当さん2人と落ちあい、車寄せで豊沢社長の到着を待つ。
VIPと言えども、業務で百貨店に入店するには入店手続きが必要になるので、ここから徒歩で従業員用入り口に移動してもらう算段だ。
作家さんを案内する時は、これがルールだから、と割り切れるが、
相手が大富豪の御曹司だとどうしても申し訳なさを感じてしまう。

出版社の担当さんはベテランの望月さんと常盤さん。
望月さんはこの店舗へは最近よく来ていて、設楽さん狙いというのは一目瞭然。
常盤さんは、ショートカットが似合う姉御タイプだなと思っていたら、望月さんの上司とのこと。
ということは私よりかなり歳上ってことになるけど、全くそうは見えない。
「今日のサイン会、問い合わせも多くて、整理券を追加発行したんですよ。」
と話してくれた。
そしてサインだけではなく、ツーショットでの写真撮影にも応じるとのこと。
それは話題になるのも頷ける。

設楽さんの手伝いで著書を並べたあの日、インターネットで調べてみたら豊沢社長の近影はたくさん出てきて、
たしかにかっこよかった。
知らずに見ていたら俳優さんだと思っていたかもしれない。

3人で世間話をしていると、時間通りに車寄せに1台のベンツが優雅に滑り込んできた。
醸し出す雰囲気が、すでに一般人と大きくかけ離れている。

助手席から秘書と思しき中年の男性が降りてきて後部座席のドアを開けると、
豊沢社長が姿を現した。

身長は170cmくらい?私が知る頃とはさほど変わらないけれど、立ち居振る舞いや身のこなしは以前と明らかに違う。
元々姿勢は良かったけど、力強さが加わったような感じ。

出版社の二人が頭を下げるのを見て、慌てて私も頭を下げる。

「豊沢社長。本日は宜しくお願い致します。
それでは、どうぞこちらへ。」
望月さんが慣れた様子で従業員用入り口へ案内する。
その後ろを社長と秘書さんが続き、最後に私と常盤さん。
私がここにいる意味あるのかな?なんて思いながら、後に続いた。
< 27 / 135 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop