一途な2人 ~強がり彼氏と強情彼女~
到着したエレベーターに乗り込む。
社長が扉部分に手を当てながら、中へ促してくれた。
エスコートがさりげなく様になっている。

そして、密室に二人きり。

誘ったのは彼なんだから、
彼が口を開くまで、私は何も言わない!!と心に決め無言を貫いた。
彼も何も言わなかった。

そして9階で扉が開いた。
ほんの数十秒間だったはずなのに、とにかく空気が重く感じていたので、
エレベーターから出られてほっとした。

行先も告げられぬまま連れてこられたのは、
創作居酒屋。
チェーン店ではなさそうで、ちょっと高級感が漂っているけど、
私のこの服装でもギリギリ大丈夫そうな、そんな感じ。

社長は店に入るなりすぐ店員さんと話をして、奥の個室へ案内された。

引き戸を開けるとそこは畳が敷かれた和室で、
4人も座れば満杯になってしまいようなこじんまりとした掘りごたつ。
社長のセレクトにしては随分庶民的な気がするんだけど、私に合わせてくれたのかと思うと、かなり配慮が行き届いている。
フレンチレストランでディナーとかでなくて本当に良かった・・・・。

社長と向かい合って座るとすぐに引き戸が引かれ、店員さんがおしぼりとお茶と持ってきてくれた。

ドリンクの注文を問われ、一瞬たじろいでいると
「この店のオリジナルの日本酒があるんだけど、どう?」
と社長に聞かれ、
「いただきます。」
と答えた。

店員さんが引き戸を閉め去っていくと、社長が口を開いた。

「改めて、久しぶり。紗良。」




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