臆病な背中で恋をした
 津田さんが連れて来てくれたのは串焼きのお店だった。とは言っても、庶民的な居酒屋さんて風じゃなく。小ぶりな料亭って構えで、敷居が高そうな雰囲気を醸していた。

 回らないお寿司屋さん風に、注文したものをカウンターの向こう側で炭焼きしてくれ、こういうのは初めてだったから新鮮で物珍しく感じる。

「海鮮ならタコの足も美味いし・・・あとは椎茸も絶品だな」

 津田さんが親切に勧めてくれるんだけど。

「明里は海のものは海老と蟹以外は駄目だしな。椎茸もだ」

 言いながら亮ちゃんが、わたしの好き嫌いを外して注文してくれた。

「なんか手間のかかる小動物ですね」

 ぼそっと津田さんが言う。

「・・・昔から面倒見なれてるからな」

 答えてる亮ちゃんは苦笑い雑じりに。・・・でも今までで一番、自然体で喋ってるように見えた。

「・・・・・・幼馴染なんだって?」

 和風の長い脚のイスに腰掛け、2人の間に挟まれているわたしは右隣りからの質問に頷く。

「まあせいぜい、バレないように気を付けるんだな。女同士の争いほど厄介なもんは無い」

「・・・はい・・・」

 気持ちが急激に萎んでく。とにかく亮ちゃんの足を引っ張らないようにしなくちゃ。
 
「そのうえ、社長の気に入りだって知れたらただじゃ済まないだろうな」

 首を横に振って全力否定。勝手に『気に入り』にしないでぇぇぇ。反対側の亮ちゃんに涙目ですがる。

「・・・津田。その辺で勘弁してやってくれ」

 さらりと言って、グラスビールに口を付ける仕草。

「はいはい。・・・何だかんだ言って日下さんが一番甘いんですよ」
 
 ぼやくみたいな口調で津田さんはひとつ、溜め息を零した。
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