臆病な背中で恋をした
 会場はいわゆる立食パーティ形式になっていた。派手に飾り付けられてるわけでもなく、壇上にスタンドの生花が華やかに飾られてるぐらいだ。

 不動産事業部だけでも30人近いし、他を合わせれば100人は超えてそうな気もする。これならきっと、社長と会う確率も少ないはず。何となく気が楽になった。

 11時半になりマイクの前に立った亮ちゃんが、まずは年頭の挨拶をした。後ろの方にいたかったのに、初野さん達にくっついてたらグイグイ前に行くし、せめて2人の陰になる位置に立つ。
 濃色の三つ揃いのスーツをぴしっと着こなした亮ちゃんは、低めの透る声で『これからも皆さんの力で社を支えていただきたい』と丁寧に簡潔なスピーチをし、最後に真下社長が壇上に。
 グレーの三つ揃いに黒のシャツで、シルバーのネクタイを合わせてる社長は、風格というより迫力があって圧倒的な存在感に満ちていた。

『個々の成果がこうして社を育て支えてくれている事に、あらためて感謝を申し上げる。結果は正当に評価する。全ては諸君次第だ。見返りをおおいに期待して、今後も励んでもらいたい。以上だ。・・・乾杯!』

 一斉にグラスが掲げられ、初野さん、三好さんと3人で小さくグラスを合わせる。

 白いクロスがかかった円形のテーブルが不規則に設置され、オードブルや飲み物が並ぶ。お皿とフォークを手に好きなものを取り、しばらくは食事を楽しんだ。
 
 見渡してみると男性社員がやっぱり多く、比率的に7対3くらいに思う。明るい装いの女性社員は、一面の野原にところどころに開いた花のよう。思い思いに談笑しあって、時折り賑やかな歓声が上がったりもする。見知った顔が少ないわたしは、どことなく身の置き場がない傍観者の気分ではあったけど。

 料理を取りにテーブルを回ってる間にいつの間にか、初野さん達の姿もどこかに紛れていて。仕方がないから、ひととおり一人でお腹を満たした後は、目立たない後ろの方の壁際でひっそりとスマホを片手に、お開きまで時間を潰すことにしたのだった。

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