恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜

「あ、あのう、お嬢さま?」

「お妃さまと呼んで」

「お妃さま、何をしているので?」

後ろから呼ぶ緑礼を、くるりと振り向いた鳴鈴はニッと笑った。

「夜這いするの」

飛龍の心の中に別の誰かが住んでいようと、関係ない。今の妃は自分なのだ。

彼が自分を愛せなくても、情が移るということはあるだろう。それでもいい。

(私は殿下を一人にしておきたくない。彼の孤独が癒せるなら、何だってするわ)

鳴鈴の心の中には、思わず雪花の名前を出してしまった時のことがよみがえっていた。

雪花が鬼籍の人だと語った飛龍の目は、深い悲しみと孤独に満ちていた。

そのとき、鳴鈴は悟ったのだ。飛龍は雪花を失って以来、ずっと孤独でいたのだと。

「ま、あ、あの! せめて上衣を!」

予想外の展開になってしまった緑礼は、部屋を出ていく鳴鈴を止められなかった。

部屋の外の護衛に声をかけ、薄物一枚だけで、裸足で廊下をぺたぺた走っていく鳴鈴を、彼女は上衣を持って追いかけた。


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