恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜

「星稜王、覚悟!」

後方から飛んできた矢を紙一重で交わし後ろを振り向くと、そこには敵軍大将が。若々しく好戦的な顔は夏の日焼けの跡が残っている。

「お前の首を国王に捧げると約束した。お前を倒し、星稜の地をいただく」

大声で叫んだ敵大将は細身の剣を構え、飛龍に向かってきた。

すれ違いざまに大きく凪ぎ払われた切っ先を戟(ゲキ)の柄で受け止める。しかしその力を真正面から受け、柄は折れ、刃が飛んでいった。

「ちっ」

腰の剣を抜き、応戦する飛龍。黒髪が風に舞った。

ここを通すわけにはいかない。星稜の地を明け渡すわけにもいかない。

なぜなら、そこには自分の民がいるからだ。彼らの生活を守る義務が、自分にはある。そして。

(お前は、俺が守る)

大切なものが、ひとつ増えた。

決していい夫とは言えない自分の前で、無邪気に微笑んでくれる、年下の妃。

自分に問題がなければ……あのことさえなければ、他の皇子のように、鳴鈴の心も体も、もっと素直に愛してやれたのだろうか。

飛龍の脇を、鋭い切っ先がかすめた。敵も相当の使い手だ。飛龍は余計な考えを頭の中から追い払った。

(待っていろ。必ず帰る。お前の元に──)

一瞬のすきをついて繰り出した剣が、相手の首の横を滑った。目を見開いた大将が言葉を発するより早く、傷から血が噴き出す。

返り血を浴びた飛龍は、大将が落馬して雪の上に突っ伏すのを見届けもせず、次の敵に向かっていった。



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