高桐先生はビターが嫌い。
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その後は、深夜の0時にカラオケ店で解散をして、合コンはお開きになった。
しょうこさんと高桐くんは最初良い感じだったから、てっきり付き合うのかと思って諦めていたけど、
高桐くんに連絡先を聞かれたあたしは、今こうして、高桐くんに家まで送って貰っている。
「た、楽しかったね」
「うん。そうだねぇ。あたし、合コンって初めてだったんだ」
「あ、俺も!だからすごい緊張してさ、」
「うんー、してたねぇ」
あたしは高桐くんの言葉にそう言うと、最初の自己紹介の時のことを思い出して、少し吹き出す。
ああ、楽しい。このまま付き合っちゃうことになればいいなぁ。
いや、もしそうなっても“アイリ”で“20歳”は貫き通すけどね。
あたしがそう思いながらゆっくり歩いていると、その隣を歩いている高桐くんが、キョロキョロ辺りを見渡しながら言う。
「…て、てか、凄い薄暗い道…だね。いつもこの辺歩いて帰ってるの?」
「え、そうだけど。別に普通じゃない?」
まぁ確かに、街灯も少ないし、人通りも少ないけど。
でも、安心してください。
本当のあたしのマンションはこの道じゃないし、教えるつもりはありませんから。
いま実際に向かっているのはあたしのマンションとは全く違う場所に位置する普通のアパートで、
いつも他の男たちと遊んだあと、送って貰った時はそこを偽りの場所として利用する。
いくら高桐くんでも、本当のことはまだ教えない。
…本当に心から信頼できる人だと確信するまでは。
あたしがそう思っていると、高桐くんが言う。
「え、だって怖…あ、危なくない?不気味だし」
「平気平気。…あ、これ。ここがあたしのアパートだから。ここまででいいよ」
そう言って、鍵を鞄から取り出す。…フリをする。
そんなあたしの言葉に、少し安心した顔をする高桐くん。
…あたしが部屋に入るまで見送るつもりなのか。
「じゃあまたね」と手を振ったあとも、ニコニコとこちらを見ている。
…まずいな。
あたしはそう思いながら、高桐くんに見えないように、アパートの中の通路を曲がって死角に入った。
はぁ…やっと、今日の任務終了っと。