高桐先生はビターが嫌い。

ふいに市川が、呆れたようにそう言った。

その声に反応してあたしが顔を上げると、市川が言葉を続けて言う。



『…ああ、わかった!だから、言わなかったの?』

「え?言わなかったって…」

『先生達に、あたしがしてた嫌がらせのこと』

「…ああ」



市川の言葉を聞くと、あたしは少し遅れて理解する。

きっと市川は、自分がずっと嫌がらせをしているにもかかわらず、あたしが黒幕である市川の名前を出さなかったことをずっと疑問に思っていたんだろう。

もしかしたら、疑問に思って、ムカついていたのかもしれない。

…それが、続いていたのかな。

あたしがそう思っていると、市川が言う。



『どれだけあたしがあんたに嫌がらせしても、あんたはあたしの名前を出さなかったじゃん。何で?って疑問に思ってたら、そんな理由だったとか』

「いや、だって…そりゃそうでしょ」

『…~っ』

「…あたしは、自分が悪いと思ってるから」



そう言うと、あたしも「ごめんね」と、改めてちゃんと謝る。

…まさかこうやって、ちゃんと謝ることができる日が来るとは思ってもみなかったな…。

そう思いながら内心すっきりしていると、その時市川が言った。



『…謝らないで』

「え、」

『あたしは、あんたに謝ってほしくて、電話してるんじゃないし。むしろ、これからは…』

「…?」



市川はそこまで言うと、少しだけ言葉を詰まらせる。

言うのを躊躇してるのか…?そう思っていたら、市川がまた言葉を続けた。



『これからは…そうやって遠慮しないで、何でも言ってほしい』

「!」

『その代わり、あたしも遠慮とかしないから。言いたいことくらいは、お互いにはっきり言い合えるように…したい』



ぶっちゃけ、日向とはそれが出来そうな気がするから。

市川はあたしにはっきりそう言うと、電話越しにビックリしているあたしの返事を待つ。

…市川…
< 94 / 313 >

この作品をシェア

pagetop