一途な御曹司に愛されすぎてます
シャンパンのような王子様
「いかがですか? 当ホテル自慢のトルテのお味は」

「とっても美味しいです……」


 ここは豪華絢爛なロイヤルスイートルーム。

 ビロードのような夜の帳に覆われた窓の外には、煌々と照る月。

 そしてラグジュアリーな猫脚テーブルの上に置かれた、チョコレート・トルテ。

 そしてそして、私の隣にはリゾート業界のイケメン御曹司様が、悠々とシャンパングラスを傾けていらっしゃる。

 ああ、この嘘みたいな現実、夢ならどうか覚めて……。


「よろしければもう一切れ召し上がりませんか?」

「あ、いただきます」


 専務さんが手ずから切り分けてくれたトルテを、素直にまたひと口。

 うまく餌付けされている自覚はあるけれど、美味しいものは美味しいのだからしかたない。


 コクのあるアーモンドの香りがミルクチョコレートの滑らかな甘みとうまく融合して、オレンジピールの新鮮な風味とココアパウダーの苦みが、絶妙な配分でアクセントになっている。

 その全体を受け止めるビターチョコレートが持つ濃厚で力強い味わいたるや、まさに王者の風格。
< 92 / 238 >

この作品をシェア

pagetop