蟲と世界

1話

蟲の世界

第一章 

はっ。午前六時。自宅で目を覚ます。
ふと今まで見ていた夢を思い出した。
夢といってもいつものと少し違った。まるで記憶といっていいように鮮明に覚えていていた。
「夢だよね。うん」
私はあまりにも現実的な夢を見ていた。まるでこれから起こりそうなものだった。
 いつもより三十分早く起きてしまった。いまから寝なおしても意味がないし、ベッドの近くにあった本棚から漫画をとりだす。いつもならまんがに熱中して時間を忘れてしまう私であるが、今回だけは何かが違った。さっきまで見ていた夢がきになる。なぜ。なぜだろうか。
 
「おはよう」
「おはよう」
 朝の教室。今は五月上旬。三年生になってほぼ一か月。私の組は三年三組。うちの学校の二階に私の教室はある。べつにそのことが何ということではない。いつも道理きょうしつに入る。いつも道理の朝の教室だった。そして私は席につこうとする。
「ちょっとどいてよ。」
「ごめんね」
私の席に一人の女の子が座っていた。
彼女の名前は「角川 編(かどかわ あみ)」私の小学生からの友達。運動が非常に得意で陸上部に所属している。その実力は確かなもので県大会優勝を狙っているほどだという。私にはよくわからないけど。最近は編の朝練があって登校時間が違うことが多い。
「ところでさ。昨日のニュース見……るわけないか」
「私がニュースなんか見るわけないでしょ」
「そうだよね」
編は苦笑いをしながら言ったあとニュースの内容を言った。
「おとといさ。とても奇妙なことがあったらしくて、何でも数万匹の虫がさ、空いっぱいに飛んで行ったらしく、専門家でも何の虫かわからないらしいよ」
 ふーん。初耳だ。
「それってどこであったの?」
「ほんとに知らないんだね。じつはこの町の近くなんだ。ちょうど雨が降っていたから人工衛星でも━━」
「あっ。それ知ってる」
 編が説明を続けているとほかの女子たちが話しかけてきた。
「あれでしょ。めちゃくちゃ多い虫」
「あたしも聞いた。今日のニュースで言ってた」
最終的にクラスの男子まで話に入りこんでいて、朝のホームルームまでその話で盛り上がった。見た感じ、私を除くクラス全員の人が知っていたっぽく、話に取り残された。
まったく、なんで世間の話題で盛り上がれるのだろう。家に帰ってゲームしたい。

学校が終わった後、いつも道理私は途中まで編と一緒に歩いていた。
その、道中編がいきなり「いっその、道中編がいきなり声をあげたのだった。
「大丈夫」
 わたしは編に声をかけた。
「あっうん。大丈夫」
 さっき大きな声で痛いと言ったし相当な激痛だっただろう。しかし編は手のあちこちを見ている。どこが痛いのかわからないのか。
「どうしたの――」
「ねえ、愛守香」
 いきなり、思いつめたように編は私に話かけてきた。
「愛守香ってさ。今幸せ?」
「えっ。」
別に編にいきなり話を変えられるのは日常茶飯事なのでそのことについては驚かなかった。ただいつもよりはるかにまじめに言ってくることだった。
「うーん」幸せっちゃ幸せかな。そりゃ違うときもあるけど」
私が何となく答えた後、しんみりとした声で編は言った。
「私はね、今があることに幸せを感じているんだ。ほら、もしも愛守香たちがいなかったらどうだっただろうって」
私は編がそんなことを考えていたなんて思わなかった。いつも楽観的でマイペースな編がこんなことを考えていたなんて正直言って、いや普通に意外だった。
「あんた熱あるんじゃない?」
私は普段と全然違うようなことを言った編に対し冗談といった。それと同時に編の額にてくぉ置いた。
ん。これってあるんじゃない。熱。
「ねぇねぇ、あんた熱あるんだけど。
そんなことを考えているといつもここで編と別れる別れ道が見えてきた。
「それじゃあね、バイバイ」
「バイバイ」
それから五分程で家に着く。
帰ってくると家には誰もいなかった。別に気にすることはなかった。両親どちらも夜勤であり、一晩中家に帰って来ないことが普通であった。
「今日のごはんはっと」
 いつも通り用意されたごはんを食べて、宿題をして、風呂に入ってと、寝る前は漫画を読む。 普段となんら変わらない過ごし方をする。そのつもりだった。
 寝られない。なぜかどうしてもつぶらないまぶた。そんなわけだけだから私は今日言った編の言葉を思い出す。
 
好きな漫画があった。私の人生を変えてくれた素晴らしい漫画があった。
主人公の男は少年時代に友情を誓った。しかし誓い合った、友達二人は何らかの縁で対立をして、世界は終末へと向かった。それでも彼は諦めなかった。悲しき運命を断ち切り、滅びの根源を説得することで、すべてを守ることができた。
小学二年生。現実世界とフィクションの区別がほとんどついてなかった時期でもあり、小さい子供が仮面○イダーの変身のまねをするように、私も真似をし続けた。ぞしていつの日か、私は憧れた彼のように生きたいと思うようになったのだ。

しかし現実は甘くなかった。彼のようになるためには、と考え、自分にできることを考えていったはずだ。
彼のように、人を守る、ただそれだけのこと。そう思っていたことが間違いだったのだ。
『自分のためにならないという嫌気』
『善人を装うなという批判への恐怖』
『羞恥心』
これらのせいで私はできなくなったのだ。今では、いや、昔もそうだ、ただ普通の女の子なのだ。

どうすれば彼のようになれるのだろう。
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