アナスタシア シンデレラ外伝

 それにしても、なんとつまらない時間なのだろう。ただただ、見知らぬ人と上辺だけの会話をし、頭を下げる。冷めた料理と高そうな酒。誰も聞いていない音楽を奏で続ける楽隊。これだけの食料があれば、もっと沢山の人が美味しく食事ができる筈なのに。これが貴族の暮らしなだろうか。

「お父様。私、皆様にフルートを披露してもよろしいかしら。」
 新しく彼女達の妹となったトレメイン伯の娘のエラは、驚く程に美しい少女だった。金色の髪、大きな瞳、ほっそりとした身体。指までもが細くしなやかで、アナスタシア達の節くれだった指とは似ても似つかない。貴族として生まれ育まれると、これほどまでに美しく育つのだろうか。とても同じ人間とは思えない。トレメイン伯爵は彼女を溺愛していた。

「あぁ、それは素敵だね。是非そうしなさい。」
 来賓達は、美しいドレスを着こなした可憐な少女の笛の音に耳を傾け、その美貌に拍手した。

 アナスタシアはフルートなど見た事さえなかったが、エラの笛の音が下手ではないが上手くもない程度であることは分かった。エラはまだ子供だけれど、13歳にもなれば真剣に学んでいればもう少し上手になっていそうなものだ。

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