アナスタシア シンデレラ外伝

 父親の亡骸を抱えて、アナスタシアの家族が駆け込んだのは、トレメイン伯爵の屋敷だった。
「母さんのお友達の家なの。少しの間お世話になりましょう。」
 アナスタシアの母は彼女達姉妹にそう言った。だが、その”お友達”がトレメイン伯爵本人のことだと知って、姉妹は驚いた。
 トレメイン伯はアナスタシアの母よりも若干若く、とても優しい紳士だった。彼女の父の葬儀を丁寧に行い、彼女達にいつまでもいてくれて構わないと言ってくれた。父の得意先でもあったようで、父の死を心から悼んでくれた。

 彼女達がもっと驚いたのは、彼女達の母が元々は貴族の娘だったと知った時だ。トレメイン伯の話によると、母は仕立て屋の父と恋に落ちて、家を飛びだしてしまったのだという。名家の怒りを買った父は、得意先を失いとても苦労していたが、その時もトレメイン伯が沢山の注文を出し、客を紹介してくれたので、父と母は2人でなんとか工房を維持し、建て直すことができたのだという。そして今、未亡人となった母を娶り、私達を養うことを申し出てくれた。新しく父となる伯爵に姉妹は多大なる恩義を感じていた。

 亡くなった父の事は本当に悲しいできごとだったけれど、母と伯爵の再婚に彼女達姉妹は異論はなかった。母は元々は貴族の子女なのだし、父のいた市井での生活は幸せだったが、今さら何をしたとしても、あの暮らしは取り戻しようがない。

 ただ、彼女達が貴族の娘を名乗るのは、違和感があった。姉のドリセラは屋敷には住むが工房通いを続け、職人見習いの青年と添い遂げるつもりだった。アナスタシアにしても、いずれはこの屋敷を出て町中で暮らしたいと願っていた。

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