出稼ぎ公女の就活事情。
 結局、わたしの涙のわけはホームシックということにした。

 うん。
 確かに他人に話すことで悩み事は楽になるとは、良く聞く話ではあるけれど。

 どう話せばいいものか、さっぱりわからないし、正直、自分でもよくわからないものを、他人に上手く話す自信もない。


 リルはというと、その後もやはり必要最低限の接触というか、どうも本当に仕事が忙しいらしく、2、3日続けて邸に帰らないことも多くなった。

 そうなるとまた別の心配もムクムクと湧き上がってしまう。
 
 リルの職場は軍の基地で、リルは国の騎士なのだから。軍関係の施設が忙しいって、あまりよろしくない想像が浮かんでしまうわよね?

 一応シルルに聞いた話だと、リルたちの隊は前線に出るというよりは諜報とか、護衛とか、他国との交渉とかがメインらしいのだけれど。

 何事もなくまた邸に帰ってくる日々に戻ってくれればいい。わたしは祈るようにそう思った。


♢♢♢♢♢

 週に一度、わたしは街に出る。
 街に出るというか、紹介所に通っているだけなのだけれど。

 週に一度、月に四回。
 これまでに五回。

 さてその成果はというと?
 見事に完敗である。

 
「いつもごめんなさい」

 六回目となる今日。
 わたしの横を歩くのはシャープな黒いピンと立った猫耳にしなかやな尻尾をゆるゆると動かす猫の獣人のシルル。

「ん、平気平気。どうせチョロチョロしてんだし。仕事のついでだよ?」

 初回こそカルダさんについて来てもらった外出だったけれど、毎回というにはカルダさんは邸での仕事に忙しい。
 代わりに白羽の矢が立ったのがシルルだった。

 シルルは隊の中でも特に諜報に特化しているらしく、普段は訓練に出ることもあまりなく、街をうろついて噂を拾ったり、情報を集めたり、基地ではなく街に出ていることが多い。

 それでわたしが外出する間だけ、護衛をしてくれることになったのだ。

 どのみち仕事が決まれば毎回護衛をつけてもらうというわけにもいかない。獣人の国といっても街に出れば人間の女性が一人歩きしているのも見かけるし、人通りが少ない道を歩くわけでもない。
 なので護衛なんて必要ないと言ってはみたのだけれど。

「リディアと一緒に町歩きとか役得だねっ♪」

 と張り切る喜ぶシルルと一人歩きは断固反対なカルダさんに押し切られた形で、毎回シルルに同行してもらうことになってしまった。


「でもシルルだって仕事があるのに……」
「だっからいっつも言ってるじゃん?ちょうどいい休憩みたいなもんだって。むしろサボれてラッキーってなもんだし?リディアともおしゃべりできるし」

--リディアはいい匂いするし♪

 そう言ってシルルはにぱっと笑うとわたしの腕にすり寄ってくる。

 ふがふがと匂いを嗅ぐシルルに、わたしはくすぐったくて、軽く身をよじった。

 シルルは隊の中でも若くてしかも数少ない女性。
 なのでこうして同じ年頃の女性とおしゃべりをする機会というのがなかなかないらしい。
 
 わたしにとってもシルルは大事な友人になりつつある。ただ、少しスキンシップが激しすぎるのは困りもの。

「そだ、明後日ってリディア空いてる?」

 明後日どころか、昼間はいつでも空いてます。
 そう胸の中で答えつつ、頷いた。

「ええ」
「じゃあ、さ。基地に訓練を覗きに行ってみる?」
「……え?」

 基地、というと、リルが毎日出勤していく?

「普段は一般人立ち入り禁止だけど、月に1日だけ見物OKになってるんだよ。それが明後日。結構人気で町の人がいっぱい集まってちょっとしたお祭りみたいになるんだ♪隊長の訓練つけてるとこ、見たくない?」

 そう言ってシルルはイタズラっぽい笑顔でわたしにウインクしてみせた。

 







 



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