出稼ぎ公女の就活事情。
 そのまま上掛けを頭から被った状態でじっと身体を丸めていると、カツカツという硬い足音がドアの方へと離れていった。

 微かにドアが閉じられた音がしたけれど、わたしは顔を出せない。

 胸の奥はドキドキと激しく波打っていて、頬はポカポカと熱があるみたいに熱い。

--どういうことなの?

 いったい何故、リルはあんなことを?

 そっとリルの唇が触れた額を指先で撫でる。
 リルの唇が触れたのはもう一カ所。
 でもそちらには触れられない。
 なんだか、触れてしまえば余計に意識してしまいそうで。

「……きっと深い意味はないのよね?」

 子供を宥める時のような感覚だったのではないか。
 きっと大人になったリルにとってわたしは聞き分けのない小さな子供みたいなものなのではないか。


「……でも、わたし--一応もう成人してるのよ?」

 20を過ぎた女性に、キスするなんて。
 逆に大人の女性として見られているからこそのようで。

 かぁっ、と頭に血が上って上掛けの中でモジモジしてしまう。

「そんなわけないわっ」

 だって普段のリルの態度はとても立派な成人女性に対するものではない。

 すぐにからかって、意地悪を言ってみたり。
 外に一人で出さなかったりどちらかというと子供扱い。

 きっとこんな風に意識してしまうのはわたしだけ。

「……ダメ」 

 ぎゅっと上掛けの中で胸元を強く握った。

「ダメだよ」

 もうすぐ帰るのに。
 なのに、意識しても辛いだけだ。

「わたしが好きなのは『リル』なの。子供の頃に一緒にいた『リル』。今のリルじゃない」

 目を瞑って、自分に言い聞かせる。
 何度も、何度も。
 呟いて、言い聞かせる。

 でないと、気づいてはいけない自分の気持ちに触れてしまいそうだから。

「これ以上はダメ」

 惹かれてはダメ。
 意識してはダメ。

 わたしは、決して今のリルと恋人になんてなれないのだから。

 好きになってしまってはいけないのだ。

「リルだって、わかっているはずなのに」

--どうしてキスなんてするの?


 恨みがましいような気分にもなって、わたしは「リルのバカっ」と口の中で小さく罵った。

 


 
 


 

 
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