出稼ぎ公女の就活事情。
「……ほんと、バカよ」
バカバカバカ。
大バカだ。
「わたしのバカ--」
震える指先で唇に触れた。
--きゅん。
と胸が締め付けられる。
頭に浮かんでしまうのは、リルの顔。
初めて会った頃の、子供の頃の『リル』ではなくて、大人の、何を考えているのかさっぱりわからない今のリル。
銀色のキレイでサラサラな細い髪。
意外なほどにガッシリとして筋肉質な身体。
細くて長い、けれど固くてゴツゴツもしている手。
キレイで整った端正な顔。
子供の頃はもっと中性的で、女の子みたいな顔で。
でも少してれくさそうにわたしに笑いかけてくれた顔は確かに男の子だった。
今のリルは、どうみても大人の男の人だ。
しかも時々妙に男の色気みたいなものがあって、わたしとしては困ってしまうし……緊張するし、ドキドキしてしまう。
イケメンという意味ではカルダさんだって負けていない。
さり気ない気遣いもできるし大人の男の人。
だけれどわたしがドキドキさせられるのはいつもリルなのだ。
いつもドキドキさせられたり、気落ちさせられたり何かというと顔が浮かんでしまうのは、リル。
--どうしよう。
ぎゅうっとしっかり蓋をしているはずなのに。
いつの間にか、気付けば緩んでしまっているみたい。
胸の中にしまい込んでいる幼い時の気持ちが、より大きくなって、わたしの胸を締め付けるよう。
「……わたし、リルが好きなのかしら」
疑問形なのは、きっとまだ往生際が悪いから。
本当は、わかっている。
でも、
「ダメだよ」
好きになってはいけない--。
♢♢♢♢♢
日が半分以上落ちて、薄暗くなった通り。
わたしとシルルの乗った馬車は行きしなと比べ少なくなった馬車の列に並んで街へと戻っている。
「ごめん。具合悪いのに気づかないとか、護衛としてホント失格だよ」
そう言ってシルルは何度も謝ってくれたけれど、もちろんわたしはシルルが悪いなんてこれっぽっちも思わない。
むしろ悪いのは全面的にわたし。
子供でもなし、自分の体調管理なんて自分で行うもの。もともとフランシスカよりもずっと日差しが強いことも気温が高いこともわかりきったいるはずのことなのだから。
申し訳なくて、わたしは謝られるたびに必死で首を振った。
「わたしの方こそごめんなさい。それにもう大丈夫だから」
ほとんど眠れはしなかったけれど、それでもずいぶん身体は楽になっている。
まだ少しだけ頭は重いけれど、頭痛もしない。
きっと今夜一晩眠れば明日にはすっかり良くなっているだろう。
街に戻った頃には、すっかり日は暮れていた。
昼間にしか、しかも数回同じ道を歩いただけのわたしの目には暗くなった街の中に、ぽっかりと街灯が明かりを放つ街並みはなんだか新鮮に見えた。
通りに溢れるのは昼間とは違う喧騒。
道を歩く人の印象も、昼間とは違う風に感じる。
「人が多いのね」
「今日は特にじゃないかな?祭りの後だし。基地を見物して、興奮したまま飲みに行く人も多いからね」
言われてみれば赤ら顔の人も多い。
たった今馬車の脇を通った人も結構な千鳥足だったし。
「わたしも歩いてみたいわ」
馬車の窓から覗くのではなく、自分の足で。
けれど呟いてからすぐに後悔した。
具合を悪くして倒れたばかりなのに何をバカなことを、と。
けれどシルルは「いいね♪」と笑ってくれる。
「ここからなら邸まで歩いてもさほど遠くないし、歩いてみる?」
「……いいの?」
また迷惑をかけるのではないか。
「ん。でもウチからは離れないようにねっ」
「--うん。ありがとう」
シルルはもしかしたらわたしが倒れたことで気落ちしていると思って気を使ってくれているのではないかと思う。
気分転換になるのなら、と。
そう思いつつ、わたしはシルルに甘えてしまう。
日の落ちた夜を迎える街は、わたしの目にはとても魅力的に映ったから。
目を逸らさなくてはならない気持ちを、わずかな時間でも忘れさせてくれるような気がして--。
わたしはシルルと共に馬車を降りた。
バカバカバカ。
大バカだ。
「わたしのバカ--」
震える指先で唇に触れた。
--きゅん。
と胸が締め付けられる。
頭に浮かんでしまうのは、リルの顔。
初めて会った頃の、子供の頃の『リル』ではなくて、大人の、何を考えているのかさっぱりわからない今のリル。
銀色のキレイでサラサラな細い髪。
意外なほどにガッシリとして筋肉質な身体。
細くて長い、けれど固くてゴツゴツもしている手。
キレイで整った端正な顔。
子供の頃はもっと中性的で、女の子みたいな顔で。
でも少してれくさそうにわたしに笑いかけてくれた顔は確かに男の子だった。
今のリルは、どうみても大人の男の人だ。
しかも時々妙に男の色気みたいなものがあって、わたしとしては困ってしまうし……緊張するし、ドキドキしてしまう。
イケメンという意味ではカルダさんだって負けていない。
さり気ない気遣いもできるし大人の男の人。
だけれどわたしがドキドキさせられるのはいつもリルなのだ。
いつもドキドキさせられたり、気落ちさせられたり何かというと顔が浮かんでしまうのは、リル。
--どうしよう。
ぎゅうっとしっかり蓋をしているはずなのに。
いつの間にか、気付けば緩んでしまっているみたい。
胸の中にしまい込んでいる幼い時の気持ちが、より大きくなって、わたしの胸を締め付けるよう。
「……わたし、リルが好きなのかしら」
疑問形なのは、きっとまだ往生際が悪いから。
本当は、わかっている。
でも、
「ダメだよ」
好きになってはいけない--。
♢♢♢♢♢
日が半分以上落ちて、薄暗くなった通り。
わたしとシルルの乗った馬車は行きしなと比べ少なくなった馬車の列に並んで街へと戻っている。
「ごめん。具合悪いのに気づかないとか、護衛としてホント失格だよ」
そう言ってシルルは何度も謝ってくれたけれど、もちろんわたしはシルルが悪いなんてこれっぽっちも思わない。
むしろ悪いのは全面的にわたし。
子供でもなし、自分の体調管理なんて自分で行うもの。もともとフランシスカよりもずっと日差しが強いことも気温が高いこともわかりきったいるはずのことなのだから。
申し訳なくて、わたしは謝られるたびに必死で首を振った。
「わたしの方こそごめんなさい。それにもう大丈夫だから」
ほとんど眠れはしなかったけれど、それでもずいぶん身体は楽になっている。
まだ少しだけ頭は重いけれど、頭痛もしない。
きっと今夜一晩眠れば明日にはすっかり良くなっているだろう。
街に戻った頃には、すっかり日は暮れていた。
昼間にしか、しかも数回同じ道を歩いただけのわたしの目には暗くなった街の中に、ぽっかりと街灯が明かりを放つ街並みはなんだか新鮮に見えた。
通りに溢れるのは昼間とは違う喧騒。
道を歩く人の印象も、昼間とは違う風に感じる。
「人が多いのね」
「今日は特にじゃないかな?祭りの後だし。基地を見物して、興奮したまま飲みに行く人も多いからね」
言われてみれば赤ら顔の人も多い。
たった今馬車の脇を通った人も結構な千鳥足だったし。
「わたしも歩いてみたいわ」
馬車の窓から覗くのではなく、自分の足で。
けれど呟いてからすぐに後悔した。
具合を悪くして倒れたばかりなのに何をバカなことを、と。
けれどシルルは「いいね♪」と笑ってくれる。
「ここからなら邸まで歩いてもさほど遠くないし、歩いてみる?」
「……いいの?」
また迷惑をかけるのではないか。
「ん。でもウチからは離れないようにねっ」
「--うん。ありがとう」
シルルはもしかしたらわたしが倒れたことで気落ちしていると思って気を使ってくれているのではないかと思う。
気分転換になるのなら、と。
そう思いつつ、わたしはシルルに甘えてしまう。
日の落ちた夜を迎える街は、わたしの目にはとても魅力的に映ったから。
目を逸らさなくてはならない気持ちを、わずかな時間でも忘れさせてくれるような気がして--。
わたしはシルルと共に馬車を降りた。