出稼ぎ公女の就活事情。
 御者に歩いて帰ることを、邸に伝言を頼んで馬車を見送った。

 夜の街は本当に雰囲気が違う。
 ここは人通りの多い中心地で昼間も人の多い通りではある。
 けれども、昼はせわしなく通り過ぎていく人の流れはゆるやか。

 子供の姿はなく、大人たちはどこかふわふわとした足取りで楽しげな声を上げながら歩いている。

 周りに見える家の様子も違う。
 窓からは柔らかな明かりが洩れて、食べ物屋や酒屋らしき店先には木の看板と開かれた入口から漏れ聞こえる喧騒。

 店先には串に刺した肉を並べた屋台が出ている場所もある。
 鼻腔を擽る臭いについ目がいってしまうけれど、これから邸で夕食を食べることを思うと我慢しなくてはいけない。

--リルが一緒に取るって言っていたものね。

 それなのに外食をしてお腹いっぱいですというわけにはいかないだろう。
 そう思って未練をわずかに残しながらも目を逸らす。


 それを見つけたのは逸らした視線の先だった。

 見覚えのある小さなモフモフの身体。
 相変わらずの上半身は裸にブカブカの膝下ズボン。
 肩から下げられたサスペンダーは今日は赤色。

 ズボンはいつも同じボロボロのものを履いているのに、サスペンダーだけはその日によって色や柄を変えている。

「オイラの唯一のオシャレポイントだからなっ!」

 と、胸を張っていたのを思い出す。

 けれど今見えたのは、そんな笑いを誘ういつものお猿さんではなく。

「……モンタさん?」

 気のせいだろうか?
 それならばいいが、でも。

「リディア?」

 訝し気なシルルの声に後ろを振り向く。

「あの、知り合いが……」

 なんと伝えるべきか。
 見間違いかも知れない。
 だったら逆に迷惑になるのかも。

「知り合いが、その、そこの路地に引きずられていったような……」

 強引に連れ込まれたように見えたけれど、知り合い同士のじゃれ合いのようなものかも知れない。
 腕を取られてはいたけれど、モンタさんもさほど反抗していた様子がなかったから。

「知り合い?」
「ええ、いつも紹介所で会うの」

 どうしよう。
 気にはなるけれど追いかけてもよいものか。
 
 少しだけ、路地の端から覗いてみるだけなら?

 ムクリと胸の奥にそんな考えが湧き上がった。
 けれどわたし一人ならともかくシルルも一緒にいるのだ。

「ふぅん、ちょっと待ってて」

 そう言ってスタスタと路地に向かっていくシルル。
 その足取りは驚くほど迷いもなければ軽い。

 そういえばあまりそうは見えないけれどシルルだって騎士の一人なのよね。

 それも歴とした正騎士。
 当然ながら軍人らしくそれなりに荒事には慣れているはず。
 
 だから人が引きずられていったという話を聞いても、臆することなく確認にいけるのだろう。


 わたしは内心でハラハラしつつも、路地へと足を向けるシルルの背を見送った。
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