出稼ぎ公女の就活事情。
「……あっ!」

 わたしを見つけるなりモンタさんは目を見開いて何か言うように唇を何度か動かした。
 けれどその喉からは一言も言葉が出ないまま、モンタさんはそれまで肩を借りていたシルルを振り払うようにして身を翻す。

「モンタさんっ?」

 まるでわたしから逃げ出すようなモンタさんの行動にわたしは驚いて声を上げる。

 いったいどうして、困った顔をして行ってしまうのか。
 そう、わたしの顔を見たモンタさんは何故だかとても困ったような顔をしていた。
 まるで見られたくないものを見られたみたいな。

 咄嗟に追い掛けようとしたわたしを、シルルの手が伸びて止める。
 シルルを見ると、小さく頭を振られた。

 そうしている間にモンタさんの小さな背は人混みの中に消えていく。

「ひどい怪我だったのに……」

 モンタさんはちゃんと自分で手当てをしてくれるだろうか。
 なんとなく、ろくな手当てもなしに放置しそうな気がする。
 人混みに消えていった小さな背中をいつまでも見送っていたわたしは、肩に置かれたシルルの手にゆっくりと振り返った。

「……なんか途方にくれたって顔してる」

 わざとだろう。
 ちゃかした物言いでつん、と指先で額をつつかれ、わたしは微苦笑を返した。

「困った顔されちゃったわ」

 声をかけない方が良かったのだろうか。
 モンタさんにしてみれば、顔見知り程度の人間に目撃されたい場面ではなかったということか。

「……でもいったい?」

 遠目に見ていた限りでは、ならず者たちに路地に連れ込まれたように見えた。
 けれどモンタさんを連れ込んだ人たちは、近くで見るとけしてならず者という風でもなかったのだ。

「ま、あんまり気にしない方がいいよっ♪」

 クルリと身を翻しながらシルルが言う。
 しなやかな尻尾が同時に円を描きながら翻る。

「……うん」

 と、そう答えつつも、わたしはモンタさんのことが気になって仕方なかった。

 それと同時に、遠目にわたしたちと走り去って行ったモンタさんを伺うように見つめる、町の人たちの視線も。
 



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