出稼ぎ公女の就活事情。
 邸に帰ると、出迎えてくれたカルダさんからリルの帰宅が深夜になるということを伝えられた。

 仕事だから仕方のないことだとわかっているのに、リルと一緒に取るはずだった夕食を一人きりで食べているとつい今日は早く帰ると言っていたのに。とか思ってしまうわたしがいる。
 
 話があるとも言っていたけれど、きっとそちらもお流れになるのだろう。


「リディア様、少しよろしいでしょうか?」

 そうカルダさんから声をかけられたのは、食事を終えて、デザートのガラス皿も空になった頃。

「ええ。もちろん……」

 ちらっと馬車を先に帰らせたことのお小言かと思ったけれど、カルダさんの様子からどうも違うようだと予想する。

 いずまいを正すと、ミラさんが新しいお茶を用意してくれたので一口喉を潤してから、カルダさんに向き合った。

「あの、なんでしょう?」

 お小言でないなら、いったいどういった要件なのか、正直予想ができない。
 仕事の話なのか。
 それともなにか別の話なのか。

「リディア様のご帰国についてお話がございます」

 どくん、と鼓動が大きく跳ねる。 

 ーー帰国。

 わたしが雇われたのは期間限定のこと。
 3ヶ月。
 それが最初からの契約。

 すでに2ヶ月と少し過ぎていて、その話が出るのはむしろ当然の話。
 逆にわたしの方から確認しておくべきことだ。

……なのに。

 わたしは何を、

ーー何をショックを受けているの?

 自分でもそんなことを考えてしまうほど、心臓は早鐘を打ち動揺のためか指先が冷たくなっていくのがわかる。

リルと交わした契約だから、リルの口から話が出るものと無意識に思い込んででもいたのか。
 だから、カルダさんから告げられるということにショックを受けているのか。
 
 それともここにいられるのが、後わずかだと改めて認識して、ショックを受けているのか。

ーーバカみたい……。

 万が一、リルから契約の延期を申し込まれたとしてもけして受ける気はないクセに。

 自分の愚かさに吐き気がした。

 


 


 
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