出稼ぎ公女の就活事情。
……どうしよう。

 さっきとは違う意味で胸のドキドキが止まらない。 
 むしろさっきよりずっと激しく高鳴っている。

 もう、リルはわたしと顔を合わせるつもりはないのではないか、と疑っていた。
 その方がいいかと思うわたしもいた。

 その一方で、最後くらいはちゃんと顔を見てしっかりと話をしたいと思うわたしもいた。

 一方的に、突然帰国を促されたことに、ショックを受けたことは確か。
 だけどだからといってそのことを責めようとか、問い詰めようとかは、もう思わない。

 もう充分。
 考えても見ればここに連れて来てもらえただけで、もう充分にリルにはたくさんのものをもらっているのだ。

 リルの指がわたしの耳元に触れて、離れる。

 寝たふりのわたしは今さら目を開けるのも戸惑われて、寝たふりのまま。

 
 ふと、寝言なら構わないのでないか、と思った。

 もう思わないなんて、嘘。
 本当はどうして?と問い詰めてしまいたいのだ。
 どうして突然三日後に帰国しろなどと言うのかと。
 どうしてそれを告げたのがリルではなく、カルダさんだったのか。

 ほんの数週間、どうしてそばにいさせてくれないのか。

「……ひどいよ、リル」

 わたしはポツリと小さな小さな声で呟いて、寝返りを打つふりでリルに背中を向けた。

 背中ごしに、リルが息を飲んだ気配がする。
 わたしはというと全力で寝たふりをする。

 ドキドキ。
 自分の心臓の音が煩い。

 しばらく、わたしも、わたしを見下ろすリルもお互いにお互いを伺っているみたいだった。

 さら、とリルの指がわたしの髪をすく。

「あなたも」

 リル?

「……あなたも約束を忘れていたでしょう?」 
 約束?
 わたしは内心で首を傾げた。

 覚えがない。
 わたしは、『リル』と何か約束をしていた?

 リルの指がわたしの耳朶のあたりでゴソゴソと動く。少しだけこしょばくて、わたしは必死にそれを我慢する。

 やがてリルの指が離れたそこには何か硬いものが付けられたらしい感触があった。
 
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