出稼ぎ公女の就活事情。
 無理をした手首足首が腫れあがり熱を出したわたしは、その後一週間ほど寝込んだ。

 当然3日後の予定だった帰国は不可能で、いまだわたしはリルの邸にいる。
 モンタさんの怪我は手当てをしてもらって右手は元通りに動くそうだけれど、左手に関しては上手く力が入らないようだ。

 それでも特別に、とわたしの見舞いに来ることを許されたモンタさんは笑って「命があるだけでもめっけもんやろ?」と言った後、わたしに向かって土下座した。

「すまんかった」

 と。

 モンタさんはこの大陸から追放されるということになったとやはり笑いながら言った。

「親切に別の大陸まで船で送迎してくれるそうや。まあ、そっからは一文無しで放り出されるんやけどな」
「そんな」

 わたしには、モンタさんがそうまでされるほどの大罪を犯したとは思えない。
 だってモンタさんがしたことは噂を流したことと、わたしを紹介所の裏口に連れ出したことだけ。

「姉ちゃんわかってへんなあ。国を混乱させる噂をわざと流した上に貴族様の客人を拉致誘拐する企みに関与したんやで?ほんまやったら問答無用で死罪や。やのに追放ですんだんは姉ちゃんがわいに連れ出されたんやなくて偶然一緒におっただけやて言い張ってくれたおかげやろ?」
「……でも」
「それになっ!わいはそう悲観もしてないねん!追放先はどこがええかって聞かれたさかい、わいフランシスカってことにしてもろたんや!姉ちゃんの国やろ?わいこの手ぇやともう騎士にはどう頑張ってもなられへんけど、代わりに姉ちゃんの国をあちこち旅でもしてみようと思うんや」

 モンタさんのその言葉に、わたしは言いかけていたことがあるのを思い出す。

「ねえ、モンタさん。わたしの知ってる人にね、昔傭兵をしてて左手と左目に大怪我をした人がいるの」

 わたしに体術や縄抜けを教えてくれた人。

「その人はほとんど見えない左目と動かない左手で、それでも傭兵を続けるって剣も槍も上手く使えないかわりにあちこち旅をしてありとあらゆる技を身につけた」

 ずっと長く旅をして、最終的に身を埋めたのがヴィルトルだった。

「そして騎士団の騎士副団長にまで上り詰めたわ」

 もっとも基本自由人だから、いつまでいるかわからないのだけど。
 
ーー誰にでも真似ができることではないけれど。むしろ真似できる人の方が少ないだろうけど。

 わたしはそう言うと、にっこりと笑う。
 
「その人はヴィルトルって国にいるから、旅をするならいつか会いに行ってみて」

 きっと、悪くない出会いになると思うから。

「おぅっ!」

 とモンタさんは元気に応えて、それからちょっと声を小さくして「けど、怖いお人やないやろな?」と身を震わせた。

 


 
  
< 83 / 86 >

この作品をシェア

pagetop