演っとけ! 劇団演劇部
「ちょっと、すいません」
 僕は遠藤さんの肩を掴む洸河の腕を振り解くように割り込んだ。
「申し訳ないんですけど、僕たち今忙しいんです。そういったことはまた今度にしてもらえませんか、先輩」
 『僕たち』というところをかなり強調して言ってやった。
「なんだ、君は?」
「レイちゃんの友達です」
 封印していた呼び方も使ってやった。
「ふぅん、友達ね」
 アホ洸河は僕と遠藤さんを交互に見てから
「じゃあ、そうさせてもらうよ」
と余裕の笑みを浮かべて去っていった。
「ありがとう、エイト君」
「いやぁ」
 遠藤さんにお礼を言われて浮かれてしまったけど、やっぱり友達という立場だとあまり強く出られない。
(俺の女に手を出すな)
とかそのうち言ってみたい。近いうちでもいい。
 四階から三階に降りて次に向かったのは、一年D組にいる元男子ハンドボール部の小森聡史君だ。今度は男子だったので僕から同じクラスの生徒に声をかけて呼び出してもらうと、あのアホに時間を食ったせいで小森君はもう帰ってしまっていた。
 隣のE組は薙刀部の井上さんと落語研究会の鈴木君のダブルチャンスだったが、やっぱりあのナンチャッテジャニーズのせいで井上さんは既に帰宅していた。
 廊下に出てきた鈴木君は
「はいはい、今日もお日柄が宜しいことで」
とわかり易い落語口調で話しかけてきた。大分変わった性格の持ち主に見えるけど、逆にそれは期待できるかもしれない。
 一人目に断られた女子生徒で確信したことだが、普通の一年生では僕らの誘いにまず乗ってこない。ただでさえ入学したばかりで右も左もわからないうちに、学校内を支配しているといっても過言ではない生徒会に牙をむこうというのだ。並大抵の神経ではやっていけない。それに落語というのは見方を変えれば一人芝居のようなものだ。演劇にもあまり抵抗はないだろう。
 僕は横の遠藤さんと顔を見合わせ、説明を始めた。
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