演っとけ! 劇団演劇部
「やぁ、皆さん。お元気でしたか?」
 部屋に入るなり洸河先輩が中学英語の教科書をそのまま和訳したような挨拶をかますと
「洸河!」
「おお、洸河じゃん!」
「どうしたんだよ、急に!?」
と、軽音部の人たちは先輩を囲んで手厚い歓迎で迎えいれた。
 キャーキャー言われるのは女子だけかと思っていたけど、意外に男子にも人望があるみたいだ。
「すごいね、先輩」
と、遠藤さんも僕に耳打ちして、尊敬の眼差しでその光景を眺めている。
 うーん、ますます心強いけど、恋のライバルでもある先輩には素直に嫉妬もしてしまう。
「今日はちょっとお願いがあってきたのですが」
と、今回の訪問目的を先輩が切り出すと
「おぅ、洸河の頼みなら何でも聞くぜ!」
「任せとけよ!」
 軽音部の人たちは話す前から実に協力的な態度だ。
 これは期待できるかもしれない。
 それにしてもなんてわかりやすい軽音部だろう。
 真剣に洸河先輩の話を聞く軽音部の人たちは、相田先輩のように髪の毛を染めている生徒しかいなかった。
 緑、黄色、青、紫、白となんともカラフルだが、赤はいない。
 理由を聞いてみたいが、僕の防衛本能が聞かないほうがいいというアラームを鳴らしている。
 そういえば、恐らくアラームの原因であろう人を放課後になってから見ていない。
 あの人のことだから、どうせどこかで悪巧みをしているか、イチゴ牛乳でも飲んでいるのだろう。
 いちいち気にしていたらキリがない。
 もしかしたらあっさり音響が味方につくのではないかと期待をしていたものの、始めはうんうんと聞いていた軽音部の人たちの顔が次第に曇っていくのが見て取れた。
「…ということなんだけど、誰か手伝ってくれませんか?」
 洸河先輩の説明が終わった時には全員が下を向いて黙ってしまっていた。
 基本、長台詞のときは自分の世界に入り込んで周りの反応を見ていない洸河先輩は、話し終えてからアレッという顔をし
「どうしたんだい、君たち?」
と、途端に慌てだした。
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