演っとけ! 劇団演劇部
「そうそう、聞いた? 昨日も相田先輩がね…」
 そこに遠藤さんも会話に入ってきて、ますますクラスの注目を集めている。
 二人は全く気付いていないようだけど、普通の高校生である僕はこういう視線に敏感だ。
「でもこうなってくると、裏方のスタッフを揃えることを優先した方がいいかもしれないね」
 僕がクラスの視線を気にしている間に、話は次の展開に進んでいた。それにしても御手洗君の意見はいつも的確だ。
 だとすると、裏方で最低限必要なのは演出と照明、そして音響の3人だ。
 今までだったら裏方は舞台に立たなくていい分、役者を見つけるより簡単だと思っていたけど、みんなに認めてもらえる演劇をやるのなら、スタッフも充実させたい。
「とりあえず音響のスタッフは、軽音部あたりに声をかけてみたらどうかな?」
 御手洗君の的確なアドバイスが続き
「そっか。さすが御手洗君だね」
と、遠藤さんも感心している。
 羨ましいけど、御手洗君と張り合う気は起きなかった。
 何故か嫉妬心も沸かない。
 そこら辺も合わせて、『リアル出来杉君』といったところなのだろう。
 それにしても、軽音部とは盲点だった。
 生徒会につぶされた弱小部以外の部活は、全く考えていなかったのだ。
「だったら、僕に任せてくれませんか」
 僕と遠藤さんに、相田先輩。そして新しい劇団員の洸河先輩を交えて、昼休みにまた作戦会議が行われた。
 御手洗君からのアドバイスである軽音部の名前を出すと、初参加の洸河先輩が前髪を片手で振り払いながら自信満々にそう切り出した。
「こう見えても趣味でギターを弾いていまして、軽音部にはいくらか顔が利きます」
 うーん、相変わらずキザだけど味方になるとなかなか頼もしい。同じ先輩でもこうなってくると相田先輩のほうが役に立っていないのではないだろうか。
 放課後になってから洸河先輩を先頭に僕と遠藤さんは、木工準備室を部室にしている軽音部のところに赴いた。
 洸河先輩がノックをして扉を開けると、ギターやベースを抱えた生徒が、数人でおしゃべりしているところだった。
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