ダイヤモンドの君は笑う

愛用しているブックカバーには、昨日新しく図書室で借りてきた本を入れてある。


最近話題のミステリーだ。
しおりをとってページを開き、さぁ読むぞと文字を追おうとした瞬間、私の手から本が消えた。目の前から羅列された文字が消えた。


消えた文字の代わりにあるのは、若宮の嫌に整った顔。珍しく笑みを浮かべていない。


「返して」


「やだ」


「返して」


「嫌だって!」


若宮の大きな声に、私は少なからず驚いた。


若宮は普段ふざけて私をからかうことはあるがやめてと一度言えば、二度はやってこない。


ひとりにはさせないと言った若宮。
ひとりにして欲しいと言う私の意思も尊重して、時には人目を気にして接してくれていた。


だから、今のようにムキになる若宮は初めてだった。


「若宮」


私はゆっくりと、若宮の名前を呼んだ。

内心混乱していることを悟られないように、怒っていると、誤解されないように。


名前を呼ぶと、若宮は下を向いた。
顔が見えない。今、どんな顔をしているのか、わからない。


「どうしたの。
若宮に何か嫌なことしたんなら、謝るよ」


若宮。


もう一度彼を呼ぶと、肩がピクリと反応するのがわかった。


「なに話してたの?」


下を向いたまま、若宮が言う。


「は?」


「佐伯と!なんか喋ってたじゃん」


佐伯と言われ、先ほどのことを思い出す。別に、大したことは話してない。


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