ダイヤモンドの君は笑う

それに、私と佐伯になにがあったって、言う義務はない。


「干渉しないで」


ぴしゃりと私は言った。
その言葉に若宮は顔を上げた。


傷ついたような顔をして、悲しそうに口を歪めている。


「ごめん。そうだよね」


そう言って若宮は私から取り上げた本を差し出す。


傷つけたことに多少の罪悪感はあるものの、お互い様だと思った。


本を受け取ろうと手を伸ばすと、反対の手で若宮に手首を掴まれ引き寄せられる。


「今日の放課後、一緒に帰ろ。そしたら返してあげる」


なにを、と聞き返す暇はなかった。
若宮はパッと私から手を離すと、教室の外のどこかの群れの中へと行ってしまった。



最悪だ。
若宮は、私が嫌がることをよく知っている。


いくら本を奪われたからと言って、あんなに人の多いところに行くのはごめんだ。


自分の本なら最悪戻ってこなくてもいいと割り切れるが、図書室のものとなると返却しなければならない義務がある。


隙を見てひとりになった隙に取り返す手もあるが若宮のことだ。


若宮は今日一日、群の中に身を隠すに決まってる。



若宮の要求を飲むより他に選択肢はなかった。

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