ツンの恩返しに、僕は108本のバラを贈るよ
「そっくりだな。そのキョトン顔、瑞樹と」

プッと吹き出して、クイクイと指で『お出で』をする。

「何ですか?」と近寄ると、副社長がいきなり私の黒縁眼鏡を取り上げ、長い前髪をサッと上げた。

嗚呼、またしても……彼が言うように私は学習能力がないのかもしれない。

「どうして素顔を隠すんだ?」

剥き出しの顔を晒すのは瑞樹の前だけと決めている。

「眼鏡を返して下さい!」

グッと身を仰け反らせ、前髪を再び下ろす。

「ふーん、一応、度は入っているんだ」

伊達眼鏡だと思っていたようだ。

「コンタクトにしたら? 瑞樹とはちょっと系統が違うが、可愛い顔が台無しだ」

瑞樹は美人可愛い姉によく似ている。系統が違うのは当たり前だ。姉は女神美人と誉れ高い母似で、私は父方の祖母に似ているのだから。

祖母にベタ惚れだった祖父は、『奈々美は美津江に似て、愛嬌のある憎めない可愛い顔をしている』と言って孫の中で一番私を可愛がってくれた。

ちなみに、祖母は私が生まれた年に天に召されたらしい。だから、余計だったのかもしれない。祖父は私を祖母の生まれ変わりのように思ったのかも……。

そして、祖父はというと老いてなお矍鑠(かくしゃく)としている。第一線を退きご隠居の身だが、新堂コンツェルンの相談役として今なお頼りにされている。

家出をしてから会っていないが……祖父のことを考えると胸がちょっとジンとする。

「――可愛いは褒め言葉ですよね? ありがとうございます」
「何だ? 顔にコンプレックスでもあるのか?」
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