そして、失恋をする
「千春………」

思わず僕は、元彼の名前を口にした。

脳裏に千春の姿がよみがえり、しばらく僕は目の前に彼女をぼうぜんと見つめた。

「なんで、助けたんですか?私は、ここで死にたかったのに」

目の前にいる彼女が一歩僕に近づいて、強い口調で問いつめるように言った。

顔は僕の好きな千春にそっくりだったが、性格は似てなかった。まるで、生きることに希望をなくしているように思えた。

「私は、死にたかったの。なんで、助けたの」

「それは………」

彼女にもう一度訊かれて、僕は言葉に詰まった。

さっきまでは死にたかったら勝手に死ねばいいと思っていたが、なぜか彼女に口に出してその言葉が言えなかった。今はなぜか、彼女に生きててほしいと思った。そして、この彼女を助けてよかったと思った。
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