そして、失恋をする
「もういいです」

助けた理由が答えられなくてあきれたのか、彼女は僕に背を向けた。

「今度こそ死ぬんで………じゃまはやめてくれませんか?」

そう言って彼女は、右足をゆっくりと上げて歩道から道路に飛び出そうとした。

「君には、死んでほしくなかったから。僕の好きだった、彼女に顔が似てるから。だから、助けた」

僕は、彼女を助けた理由を口にした。

「え!」

後ろから聞こえた僕の言葉を聞いて、彼女の足がピタリと、そこで止まった。

「それが、私を助けた理由?」

彼女は振り返らず、小さな声で僕に訊いた。

「うん、そうだよ」

それは、咄嗟に思いついた理由だった。

僕が彼女を助けた理由ははっきりとなく、どちらかと言うと反射的なものだった。それが偶然、僕の好きだった千春に似ていた。
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