そして、失恋をする
「似てるんだよね、陸君の好きだった人と私が」

「そうだけど………」

僕がそう答えたのを確認して、千夏は軽く口元をゆるめた。

「ねぇ、陸君。まちがっても、私なんか好きにならないでね」

「えっ!」

「もうすぐ死ぬ私なんか好きになったて、陸君が悲しくなるだけだから。だから、私なんか好きにならないでね」

ーーーーーー無理だ。そんなのもう無理だよ。だって僕はもう、千夏のことが好きなんだから。

千夏は突き放すような言い方をしたが、僕はもう彼女のことを好きになっていた。

「なんで?」

「えっ?」

「なんでもうすぐ死ぬからって、好きになったらいけないの?そんなの関係ないじゃん」

はっきりとした口調で、僕は千夏の頼みを拒んだ。

「少ししか一緒にいられないかもしれない。悲しくなるかもしれない。けれど、僕は千夏のことが好きだ。好きなんだ」

いつ彼女のことをこんなに好きになったかわからないけど、気がついたら、僕は千夏のことを好きになっていた。

「もう一度言うけれど、私なんか好きになっても悲しくなるだけだよ」

「今、ここで千夏をあきらめた方が僕は後で悲しくなるよ」

千夏の忠告を押し切って、僕はそう言った。

「それに、最初に付き合う約束してきたのは千夏からなのに、今さら好きになるなとか言うなよ」

僕が正論を言うと、千夏は「ほんと悲しくなるだけだから」と、涙目で言った。
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