そして、失恋をする
「なんで、わかったの?」

「やっぱり、嫌なことがあったんだ」

僕の言葉を聞いて、千夏は落ち着いた声で言った。

「なにがあったの?」

「今朝、父親と母親がケンカしたんだ」

ほんとうは、彼女に言うつもりなんてなかった。けれど、千夏の優しさに僕の口が滑った。

「母親は家を出て行って、おそらくもう帰って来ないと思う」

「どうして、そんなことがわかるの?」

「母親に好きな人がいたんだ」

小さな声で言った僕の言葉を聞いて、千夏は「そうなんだ」と言った。

「母親はパートの仕事と、家の仕事を両立してくれていた。僕の家では、それが当たり前だった」

「完全な亭主関白ね」

千夏がため息まじりな声で言って、僕は自然とうなずいた。

「そして最近になって母親は、化粧をして夕方から深夜にかけてお酒を飲むようになって家に帰宅するのが父親よりも遅くなったんだ」

「それが、ケンカの原因?」

「うん」

千夏にそう言われて、僕はコクリとうなずいた。
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