いつか、きみの空を。
いつか、きみの空へ


幼い頃、双子の兄である葵衣と県内で一番大きな神社にある杉の木の下で約束をした。

約束をしたということを覚えておくのに精一杯で、どんな約束だったのかは覚えていない。


もう一度、あの場所へ行けば思い出せるのかもしれないけれど、思い出は、思い出だけは美しいままであってほしくて、神社への行き方は調べる途中でやめてしまった。


いつからか胸の内に芽生え、葵衣がわたしの世界に与えてくれた色や温度によって蕾を膨らませた恋心は、もうすぐ歪な形の醜い花を咲かせてしまう。

葵衣への気持ちが恋だなんて気付きたくなかった。

恋に限りなく近くても、恋だと認めてはいけなかった。


葵衣、アオイ、あおい。

同じ気持ちでいてほしいとは言わない。

幸せになってほしいとは言わない。

不幸にならないでほしいとも言わない。

葵衣に望むことはひとつもない。


芽生えてはいけなかったはずの想いを葵衣に摘ませてしまう前に、わたしが壊す。

そのためなら、死んでしまったって構わない。


だって、わたしは。

もう、葵衣しかいらない。



【いつか、きみの空を。】


< 1 / 109 >

この作品をシェア

pagetop