いつか、きみの空を。
触れて、触れないで





授業が終わる頃になって、大雨が降り始めた。

天気予報は夕方に雨が降ることを教えてくれていたから、わたしを含めたクラスメイトの大半は傘を持ってきていた。


今日は荷物が多くて、わたしの傘では小さいこともわかっていたから、我が家で一番大きな傘を持ってきている。


「花奏、終わった?」


「もうちょっと。ごめんね、待たせちゃって」


わたしと日菜以外は誰もいない教室に、シャーペンが紙面を走る音と窓を叩く雨音だけが響く。


「ひどいよね、橋田のやつ。やらないんなら最初から渡しとけっての」


「他のことは全部やってくれたんだけどね」


号令、黒板消し、行事予定の書き換え、日誌以外の日直の役割は全部、橋田くんがやってくれた。

『俺が全部やるから!』と張り切っていたし、やってくれるのならふたりがかりでする必要はないことばかりだったから、全部任せてしまっていた。

日誌はわたしが書くつもりだったけれど、いつまでも寄越さずに帰り際まで橋田くんの机の中に仕舞われていて、ホームルームが終わった途端に『じゃあこれ、よろしく』と手渡された。


書くつもりがないのなら早く渡しておいてほしかったのだけれど、わたしから言わなかったということもあるし、文句はさっきから日菜が垂れてくれているから、そこまで気にしてはいない。


一冊終わりかけの日誌を遡り、当たり障りのない授業内容を参考にしながら黙々と書いていく。

その間も日菜は橋田くんのことをぶつぶつとぼやいていた。


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