無愛想な仮面の下
8.好きになってはいけない
 次の日、出社すると上司に声をかけられた。

「浜島さん。
 出会い企画のデザートの件で試作の佐久間くんと打ち合わせして。」

 まだ採用されたわけじゃない企画も仙人から直々の呼び出したあれば仕事中でも打ち合わせOKなんて恵まれてる。

 まぁ、これは佐久間さんがいい物を作ってるっていう実績があるからなんだろうけど。

 本格的に仕事で関わるのは初めてだ。
 ライバルとして、盗めるところは盗まなければ。

 前とは違った理由で緊張気味に試作室のドアを開いた。

「こっち。」

 いつもより少しだけ綺麗な白衣に身を包んだ佐久間さんが手招きする。
 覗き込むと私が考えたアイスが具現化していた。

「すごい!もう出来るじゃないですか!」

 冷たく睨まれて口を噤んだ。
 完成してたら私が来た意味ないよね。
 失言。失言。

「フレーバーの組み合わせに、保存時にくっつかない固さ。
 後は口に入れた時の溶け具合に、後味も重要だ。
 それらを理想通りに仕上げたい。」

 まだ試作品ですよね?
 そんな言葉はかけれなかった。

 やっぱり佐久間さんは仕事に熱い人だ。

 何個か味見をさせてもらっては、味のイメージ、舌にのせた時の感触などを何度も話し合った。
 お陰で何度かやるうちに舌の感覚が麻痺してくる。

「一度、休憩を挟もう。」

 根を上げる前に気遣ってもらえてホッと息をついた。

 普段はどうしてるんだろう。
 あの気怠い感じでずっと味見?

 想像するとおかしくて、ふふふっと笑う。

 その後も何度も何度も試行錯誤を繰り返した。

「今日はここまでにしよう。」

 没頭して時間が過ぎるのを忘れていた。
 時計は終電ギリギリを指している。

「わぁ。ヤバイ!!」

「片付けはいいから帰れ。」

「え、えっと。でも…。」

「さっさと帰れ!」

「はいっ!」

 今にもお尻を叩かれそうな勢いで追い出されて会社を飛び出した。
 この時間ならなんとか電車に乗れそうだ。

 無愛想…は変わらないけど、必要最小限の会話で仕事も集中できて、何気に仕事はしやすい。

 仙人の名前もダテじゃないなぁ。

 感心しつつ、先に帰らせてくれたことにも感謝した。
 熱くて優しい人なんだ。きっと。

 見た目とそぐわない中身に佐久間さんが言っていた「女なんて上辺しか見ない」という台詞を思い出す。

 私も外側だけしか見てなかったなぁ。

 反省しつつ電車の窓から空を見上げた。
 空にはぽっかり上弦の月が浮かんでいた。







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