無愛想な仮面の下
 あれからどこまで飲んだのか記憶が怪しい。

 朝起きると頭痛に加え、夢見も最悪だった。

 モジャが企画した『フルーツたっぷりスッキリゼリー』の完成品を食べようと口を開けたところで目が覚めた。

『夏に増える飲み会の後に!
 二日酔いに効く嬉しいビタミンたっぷり』

 うたい文句とプルルンと揺れたゼリーがなんとも涼しげで夢なのに食べれなかった無念さと、モジャのなんて食べてたまるか!という意固地さが二日酔いの頭痛をひどくさせた。



 連絡を入れて遅い出社に変えてもらった通勤電車はいつもより空いている。

 この時間帯の出勤に変えてもらおうかなぁ。

 幾分、二日酔いはよくなった気がして呑気なことを考えて視線を何気なく移した。

 ホームの柱にもたれて生気ゼロで立っている人影。
 今、一番会いたくない人が視界に飛び込んで来た。

 無造作に伸びた髪に無精髭。
 ヨレヨレの白衣が純白とは言えない色になっている。
 加えて黒縁眼鏡。

 間違いない。
 モジャだ。

 良くなったはずの頭痛を抱えて、それでもこれ以上、出勤を遅らせれないと電車に乗り込んだ。
 幸い、こちらが一方的に知っているだけで向こうはこっちの存在を知る由もない。

 同じ車両の離れた場所に腰掛けると気の無い素ぶりをしつつ、目の端にモジャを捉えた。
 気怠げに座るモジャ。

 どうしてあんな人に毎回負けるのか。
 そもそもあんな世捨て人にどうしていい企画が書けるのか。






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