無愛想な仮面の下
10.悲しい瞳
 お昼休憩も残り僅か。
 化粧直しでもしてから戻ろうと沙羅と別れてトイレへと向かった。

 急に手を引かれ、行こうとしていた方向とは別の方へ体を引っ張られた。

「ちょ、何するんですか。」

 体は引っ張られた人の腕の中に収まってものすごく居心地が悪い。
 ふわっと香るシトラスのにおいが声を聞かなくても誰だか分かって口惜しい。

「黙ってろ。
 やっと煩いのから解放されたんだ。」

 周りにはまだ佐久間さんを探している熱狂的なファンのような人達。

「けど、ここ男子便!」

 誰か来たら変態だって思われ兼ねない。
 小声で訴えてみても佐久間さんは聞き入れてくれない。

「行ったか……。」

 辺りの様子を伺って、誰もいなくなったことを確認すると解放された。
 目の前にはいつも以上に不機嫌な佐久間さんが立っていた。

「で、お望み通りにしてきたが?」

 身綺麗に。そう。私がお願いしたことだ。

「それだけイケメンなら最初からそうしてればいいじゃないですか。」

 佐久間さんは無愛想で不機嫌で。
 偏屈で頑固で、けれど熱くて時に優しい。
 そんな人っていうだけで良かったのに。

「なんだ。あんたも一緒か。」

 失望した眼差しで一瞥して佐久間さんは去っていった。

 あんたも一緒。
 あんたも上辺だけしか見ないって事?

 佐久間さんの去り際の冷たい視線が目に焼き付いて離れない。
 崩れ落ちるように座り込んで頭を抱えた。

 だってどうしろって言うの。

「うわぁ。え?ここ男性用トイレだよね?」

 間違えて入っちゃった?と動揺する男性に頭を下げてトイレを出た。

 佐久間さんとは関わらない。
 それしか今の私にはできない。







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