無愛想な仮面の下
 あれから平和な日常が戻ってきた。
 元々、関わりがない人だったんだ。

 佐久間さんと関わらないことが普通の普段通りの私。

「ちょっと浜島さん。」

 課長に呼ばれて嫌な予感しかしない。
 ネチネチ小言を言われるのかと肩を落として課長の席まで馳せ参じた。

「おめでとう。
 今回のコンペで浜島さんの企画が採用されたよ。」

「本当ですか!?」

 まさか課長に褒められるなんて……。

「あぁ。佐久間くんにもよく礼を言っておくように。」

「……はぁ。」

 皮肉にも企画は採用だった。
 嬉しいのに心から喜べない。

 それでも、やっぱりお礼は言うべきなのかな。

 仕事が終わって帰る頃、無視することはできたのに気持ちがおさまらなくて資料室へと足を向けた。

 思った通り、佐久間さんはいつもの場所でお昼寝中だった。
 あれ以来、久しぶりに顔を見る。

 久しぶりに見る、というよりこんなにマジマジと見るのは初めてかもしれない。

 スッと通った鼻すじ。
 閉じられたまつ毛は長く、そして今は閉じられていても開くと綺麗な瞳。
 形のいい唇は薄く、色気さえ漂っている。

「俺、寝込み襲われる?」

 悪戯っぽく片目が開かれて仰け反った。
 起きてたなんて意地が悪い。

 眠そうに体を起こした佐久間さんは伸びをした。
 モジャの時も思ってたけど長身……なんだよね。

 長い手足を持て余すように椅子に座り、頬づえをついた。

「採用されたってな。企画。
 おめでとう。」

 先越されてなんだか狡い。
 毒素を抜かれたみたいな真っ直ぐな賞賛にこちらは完敗だ。

「佐久間さんのお陰です。
 それが例え社長の息子という力添えだったとしても。」

 しばらくの無言。
 社長の息子って言われたくなかったかな。

 だってどう考えてみても、この人は社長の息子というポジションに甘んじていない。
 自分で努力して作り上げている。








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