女探偵アマネの事件簿(下)
橋の下に降りてくると、丁度夕日の光がキラキラと川の表面に降り注ぐ。

「……ねぇ、アマネ」

フランツは川を眺めてから、アマネを振り返った。

少しだけ、寂しげな表情で。

「今日は……楽しかった?」

「……正直に言っても良いのならお答えします」

アマネの視線に、フランツは無言で頷く。

「……………楽しかったというより、戸惑いました。ウィルといる時と似ていてまた違っていて、貴方はあくまで、私を女扱いしようとしますから」

フランツとウィルの違い。それは、ウィルは対等な関係でアマネに接し、フランツは女性として接した。

どちらも、彼らなりに考えて、一番良いと思った接し方をしているだけだ。

目を伏せたアマネを見ながら、フランツは小さく笑みを浮かべる。

「……アマネ。答え合わせをしようか」

「………」

「君は賢い。だから、君自信の気持ちに気が付かない訳がないんだ。だって、自分のことは自分が一番よく分かるだろう?」

フランツの言葉を、アマネはただ静かに聞いている。

「本当は、もうとっくに気付き始めていたんじゃないかな。君にとって、彼がどんな存在か。けれども、君はわざと自分の気持ちを無視した。それは、彼に知られるのが怖かったから。君が一番隠したがってる過去を」

フランツは、そこで言葉を切ると、足元に咲く花を眺める。

「僕は君の過去を調べて、君が回りに無関心な理由を知った。でも、君にはなんの罪もないよ。だって、生まれてくることが罪だなんて、誰に決める権利があるんだい?」

「………」

「生きていてはいけないと言う人間がいたとしたら、それは回りがそうさせてしまったんだよ。生まれた時、人は誰もが無垢だから。人は育った場所、育ててくれた人によって変わるんだ」

もしも、フランツの父が母を捨てなかったら、今とは別の人生があったかもしれない。

もしも、ウィルが優しい老人に拾われなければ、回りの人を平気で傷つける人間になっていたかもしれない。

「だからね、君は何も悪くないんだ。君が自分自身を嫌悪しなくたって良いんだよ」

フランツはアマネの側によると、アマネの頬に手を伸ばす。

「……君は、生きてて良いんだよ」

「…………同じ事を、言うんですね」

前に、同じ場所でフランツが言った言葉。抱き締めたアマネに言った言葉。

「僕は君を否定しない。僕が君を認めてあげる。過去なんかより、今が大事だ。そう思わないかい?」

「………私はっ」

言いかけたアマネに、フランツは顔を寄せる。

絡み合う視線と近付く吐息に、アマネは身動きが取れなくなる。

二つの影が重なる。すると―。

「……いらっしゃい」

フランツはアマネの後ろに立っている男に声をかける。

「………」

「人の恋路を邪魔するやつはなんとやらって、ことわざがあるんだけど知ってる?」

フランツは、殺気を隠す気もなく振り撒いている人物に笑って見せた。

「……そいつに、何したんだ?」

「ご想像に………お任せするよ!!」

フランツは素早く懐から何かを取り出すと、それを投げつけた。
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