女探偵アマネの事件簿(下)
二十世紀、現代日本。

「やべ、やらかした」

高校の入学式初日。一人の男子生徒がとぼとぼと校内を歩いている。

(今朝は目の前でトラックが転倒するし、その後歩きスマホしてた奴がぶつかってくるし、大荷物持ったお婆ちゃんの手伝いを何故かして、結局始業式逃した)

小さい頃から不幸体質とも言えるくらい、彼は災難に見回れることが多かった。

(俺、呪われてんのかな?しかもその後、髪を黒に『戻してこい』って生徒指導の先生に言われるし。これは地毛なんだけどな!)

染めてるのかと思われそうなほど、見事な茶髪に男子生徒はため息を吐く。

中庭に続く通路を歩いていると、不意に何かの音を拾った。

(?……誰かの……歌?)

良く耳を澄ませてみると、微かにだがメロディーのような音が聞こえる。

(………何か、懐かしいな)

その声に何となく惹かれ、彼は中庭へと歩く。

風が吹く中庭には、大きな太い桜の木があり、雨のように花びらが散っていた。

すると、桜の雨に混じり、黒い何かが見える。

(?カラス)

「桜 ひらひら」

(違う。誰かいる)

近づく度に声がはっきりと聞こえ、黒い影は形をなす。

桜の木に背を預け、本をパラパラ捲りながら、黒い髪の女子生徒が座って歌っていた。

(この子が歌ってたのか。てか、早!)

本を捲る速度が早く、彼は驚きに目を見開く。

「桜 どこへ この地であなたを待つと 桜の木の下私は歌う」

「あの……」

少女は歌を止め、俯いていた顔をあげる。

真っ黒な瞳に、彼は懐かしさを感じた。

「えっと………こ、こんにちは!」

(だぁぁぁぁぁ!他に言うこと無いのか俺はぁぁぁぁ!!)

心の中で叫ぶと、女生徒は本を置いて立ち上がる。

「はい。こんにちは」

ふわりと笑って少女は返事を返す。


ここからまた、二人の物語が始まるのだった。
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